【1月16日 東方新報】インターネットやスマホアプリを通じた単発の仕事(ギグ)を基盤とした新しい経済・労働スタイル「ギグエコノミー」が中国でも普及している。日本のウーバーイーツ(UberEATS)の配達員のように、食事配送サービスの配達員がその代表例だが、ある配達員が突然死したことをきっかけに、ギグワーカーたちの労働環境の過酷や保障の少なさに関心が高まっている。

 昨年12月21日午後5時、食事配送サービスアプリ運営会社「餓了麼(Ele.me)」を通じて北京で配達員をしていた43歳の韓さんは、この日34か所めの配達をしている途中に突然倒れ、帰らぬ人となった。警察が検視した結果、事件性はなく突然死と診断された。

 韓さんは妻と一緒に昨年2月、山西省(Shanxi)から北京へ出稼ぎに来たばかり。学校に通っている2人の子どもや両親を養うため、高収入の仕事として配達員を選んだ。3月の健康診断では異常はなく、日ごろは何の薬も飲んでおらず、健康体そのものだった。遺族が餓了麼に補償を求めると、同社は「韓氏とわが社の間には雇用関係は存在しない」とし、「人道主義による補償」として2000元(約3万2087円)だけ支払うと伝えた。また、韓さんは配達員としての保険を払っていたが、死亡保険金として受け取ったのはわずか3万元(約48万1305円)だった。このことが世間に広まり餓了麼への批判が高まると、同社は今年1月8日、「韓氏に心から哀悼の意を表し、60万元(約963万円)の補償金を支払う」と表明。同じ悲劇が起きないよう再発防止に努め、保険の不備も改善していくと釈明に追われた。

 中国でギグエコノミーというと、2015年ごろから広まった私用車配車サービスが先駆けだった。サラリーマンが帰宅後に自家用車を使い、スマホの配車アプリを通じてタクシーを求める市民を乗せ、副収入を得ていた。当時のタクシー不足解消につながり、ドライバー、利用者、社会それぞれにメリットがある「三方よし」のビジネスモデルとみられた。2017年当時で中国のギグワーカーは716万人を数え、同年の都市部の新規雇用の10%近くを占めた。昨年は新型コロナウイルスの拡大で失業した多くの人々が配車サービスや食事配達員に仕事を変え、ギグエコノミーが雇用を安定させた。

 しかし、ギグワークが副業でなく本業となると、多くの問題が浮き彫りになってきた。特に食事配達員の過酷さは以前から社会問題になっている。顧客が注文してから食事を届けるまでの時間は、アプリ運営会社がナビ上で設定する最短ルートに基づいており、配達員は1分でも間に合わなければペナルティーを科される。そのためスピード違反や信号無視による配達員の交通事故が絶えず、「配達員とは警察と戦い、死に神と競争する仕事。友達は赤信号」とさえ言われている。顧客が配達員に何か不満があればアプリで低い評価をするため、配達員は心理的プレッシャーにもさらされている。さらに今回の韓さんの死亡を巡り、非常時の保障も乏しいことがあらためて注目された。

 中国メディアは「ギグエコノミーは自由な発展の段階から、規制が必要な時期を迎えている。特定のインターネットプラットフォーム企業による寡占も進んでいる」と指摘。「雇い主と労働者は対等である原則に基づき、ギグワーカーの側に立った契約や労働環境、保障のあり方を早急に検討すべきだ」と訴えている。(c)東方新報/AFPBB News