【1月14日 東方新報】中国では2000年代に入り、自動車産業が集積した広州市(Guangzhou)が「中国のデトロイト」と呼ばれていたが、近年は内陸部の重慶市(Chongqing)がそう称されるようになった。重慶は中国西部の経済発展をけん引する「使命」を帯びた都市でもある。近年は、新エネルギー車(NEV)やコネクテッドカーに力を入れ、先端都市として飛躍を遂げようとしている。

 北海道とほぼ同じ面積で3000万人以上の人口を擁する重慶市。米フォード(Ford)の合弁会社・長安福特汽車(Changan Ford Automobile)や米ゼネラルモーターズ(General Motors)などの上汽通用五菱(SAIC-GM-Wuling Automobile)、日本のいすゞ(Isuzu Mortors)の合弁会社・慶鈴汽車(Qingling Mortors)などが拠点を持つほか、長安汽車(Changan Automobile)、東風小康汽車(DFSK Mortors)、斯威汽車(SMW Mortors)、力帆汽車などの国産メーカーも軒を連ねる。自動車生産企業約45社、エンジン、トランスミッション、エアコンなど部品企業は約1600社。年間生産額6000億元(約9兆6639億円)を誇る一大自動車都市だ。

 重慶の自動車産業は1950年代から始まったが、1970年半ばでも年間生産能力は1000台ほどだった。1980年代、長安機械製造工場(長安汽車の前身の一つ)がミニバスや軽自動車の生産を始めて勢いが増し、1985年にいすゞが合弁会社を、1993年にスズキ(Suzuki Motor)が合弁会社を設立した。1992年には自動車産業の売上高が重慶市全産業の24%を占めた。

 2010年代から「中国のデトロイト」の名が定着し、2014年から2016年までの年間生産台数は260万台、300万台、316万台と増え続け、3年連続で全国1位を達成した。しかし2017年には広州市にトップの座を奪われ、2018年は生産台数が172万台に激減した。重慶市の自動車製品はグレードや競争力が低く、自動車市場の低迷の影響が直撃した。

 危機に直面した重慶市政府は2018年12月、「自動車産業の変革と高度化を加速するための指導」を発表。自動車産業のスマート化を促進するため、2022年までに研究開発費180億元(約2899億円)を投入する方針を示した。2019年12月には、中国西部で初のコネクテッドカー試験場を開設。スマート化した交通信号制御やV2X(車間および路車間)通信などのシステムを設置し、自動運転などに関連する走行試験を続けている。

 重慶市経済・情報化委員会は昨年9月の記者会見で、1~8月の重慶市の自動車生産額がコロナ禍においても前年同期比3.5ポイント増となり、回復基調が顕著になってきたと説明。さらに「今後の自動車産業は新エネルギー車とコネクテッドカーを重視する」と表明した。記者発表に同席した長安汽車の葉沛(Ye Pei)副総裁は「新エネルギー車の開発、自動車のスマート化に重点を置き、競争力のない車種を淘汰(とうた)する。さらに、2025年までに完全な音声操作を実現させ、自動運転レベル4(限定エリア内で運転手が不要)に対応する車種の量産、新エネルギー車の生産比率を25%以上にする」と方針を示した。

 中国最大手の上海汽車集団(SAIC)とイタリア自動車大手フィアット(Fiat)傘下のイヴェコ(Iveco)などの合弁会社・上汽依維柯紅岩商用車(SAIC-Iveco Hongyan-Commercial-Vehicle)は昨年10月、重慶市にスマート工場を着工。夏洪彬(Xia Hongbin)副総経理は「第5世代移動通信システム(5G)や自動運転レベル4に対応したスマート大型トラックの開発を強化し、消防車や冷蔵車、ミキサー車などへの応用も進める」としている。

 中国政府にとって、経済成長で先行する上海や広州などの沿岸部と比べ、開発の遅れた内陸部をどう経済発展させるかは長年のテーマだ。中国経済にとって「伸びしろ」にも「足かせ」にもなる地域であり、政府は重慶を発展の拠点として期待し、1997年に四川省(Sichuan)から分離して直轄市に指定した経緯がある。近年は中国政府が進める広域経済圏構想「一帯一路(Belt and Road)」の中核拠点であり、欧州・アジアと長江経済圏をつなぐ物流拠点である。重慶の浮沈は中国の成長性にもつながり、その重慶の成長は自動車産業にかかっている。(c)東方新報/AFPBB News