【1月12日 AFP】インド国境に程近いバングラデシュの町サライル(Sarail)で、ぼろぼろの小屋に住むラビダス(Rabidas)兄弟は、絶滅の危機に瀕(ひん)する犬「サライル・ハウンド」を一家の伝統として飼い続けている。犬の名はこの町にちなんでいるが、地元で飼う人は少なくなっている。

 サライル犬は体高が高く痩せ形、とがった耳をもつ、2色の毛の希少犬種で、数世紀にわたり珍重されてきた。

 目がいいサライル犬はその狩猟能力で知られており、軍用犬や警察犬として登用されてきた。番犬としても人気が高く、忠誠心の強さが飼い主を魅了している。

 1971年の独立戦争で独立派勢力を率いたMAGオスマニ(M.A.G. Osmani)将軍は、サライル犬を2匹飼っていた。襲撃された際に、このうちの1匹に命を救われたという逸話もある。

 だが、複数の推計によると、純血のサライル犬の個体数は減少しており、バングラデシュ国内に数十頭いるだけだ。

 サライル犬はイングランド・ハウンドとムガール帝国の封建地主らが飼っていた視覚ハウンド種を起源とする説や、アラブの商人が連れてきた狩猟犬から派生したとする説がある。

 ラビダス兄弟の弟トポン(Topon Rabidas)さん(38)は、「この町では多くの家庭が、かつてサライル犬を飼っていた」とAFPに語った。今ではごくわずかな家族が「番犬や家を飾る地元の歴史の一片として」飼っているのだと言う。

 兄のジョトン(Joton Rabidas)さん(40)は、一家の伝統として代々サライル犬を飼ってきたことを誇りにしている。

 だが、両方とも「ライオン」と名付けた雄犬2匹を飼う費用が、貧しいラビダス家に大きな負担となっている。

 人口1億6800万人のバングラデシュでは、国民の約30%が貧困線に満たない状況で暮らしており、利用できる土地も限られている。そのような状況で、サライル犬の飼育は一般的なバングラデシュ人には手の届かないぜいたくだとみなされている。

 共に靴の修理職人として働くラビダス兄弟が飼う2匹は、大量の鶏肉と牛肉を食べる。兄弟は餌代を賄うため、ライオンらを近所の人が飼う雌犬と交配させ、子犬を1匹当たり最高500ドル(約5万1500円)で売りに出す。

 ラビダス兄弟は、多額の費用がかかるため、自分たちの子どもはサライル犬を飼うという家族の伝統を引き継いでくれないのではないかと心配している。

 ジョントンさんは、「祖父は祖先をしのぶため、少なくとも2匹のサライル犬を飼うよう私たちに言った」と話した。「犬が死んだら家族全員で悲しむ。子犬は家族の一員のようなものだ。(中略)だが、私たちの次の世代が飼い続けられるかどうかは分からない」

 映像は2020年11、12月に取材したもの。(c)AFP/Shafiqul ALAM