【1月10日 AFP】まるでSF映画かディストピアを描いたテレビドラマの一場面のように見えるかもしれないが、ここはアフリカ・ガボンのジャングル。バイオハザード(生物災害)対策用の黄色い防護服に身を包んだ6人の男性が、息苦しいほどの暑さの中をはうように前進していた。ミッションは、コロナウイルスのような病原体が種の壁を越え、どうやってヒトに感染するのかを解き明かすこと。目的地は洞窟内部、コウモリのすみかだ。

 ガボン東部に位置するフランスビル大学(University of Franceville)教授で、フランスビル国際医学研究センター(CIRMF)の共同代表も務めるガエル・マガンガ(Gael Maganga)氏は、「私たちの仕事は、人類を脅かす可能性がある病原体を探し、種から種への感染がどのように起こるのかを理解することだ」と説明した。

 コウモリが宿主となっているウイルスは、コウモリには無害でも、現生人類ホモ・サピエンスにとっては有害な場合もあり、他の動物を媒介することも多い。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、動物からヒトにうつる人獣共通感染症の道をたどったと思われる病原体の最新例にすぎない。

 注目すべき前例としては、呼吸器系ウイルスでは3種類、2012年の中東呼吸器症候群(MERS)、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、1997年の鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)がある。さらに、1976年に発生した出血性ウイルスのエボラ。そしてエイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)もだ。エイズは、約100年前にチンパンジーからヒトに感染したとされ、ウイルスに感染していた肉を処理した猟師らから広がったと考えられている。

 洞窟の入り口が突然前方に現れ、コウモリの群れが飛び出してきた。そこら中の地面や岩の上にコウモリの白いふんが積もっている。

 マガンガ氏の指示で、研究チームが洞窟の入り口全体に網を広げると、見慣れない人間の存在に気付いたコウモリが洞窟内部に避難し始めた。そこで1人が奥に進み、懐中電灯で洞窟の中を照らすと、コウモリが飛び出してきて網に引っ掛かった。

 科学的な研究は、いよいよここから始まる。研究チームは滅菌綿棒を取り出し、コウモリの口と直腸からサンプルを採取していった。

■人間の行動がウイルス発生の原因に

「人間の行動がウイルス発生の原因になっていることは多い」とマガンガ氏は言う。「最近は、人口圧(経済活動に対して人口が相対的に過剰傾向になること)や集約的農業、または狩猟によって、人間と動物の接触が増えてきている」

 国連(UN)の専門家組織「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」が昨年10月に発表した報告書によると、動物を宿主とし、ヒト感染の恐れがあるウイルスは最大85万種、存在する。

 同報告書は、新興感染症のうち70%はヒトに感染する前に動物間で広がり、毎年5つ前後の新たな感染症がヒト間で発生すると指摘している。

 ガボンで発生するエボラのアウトブレイクは毎回、コンゴ共和国との国境に近いザディエ(Zadie)洞窟がある地域から感染が広がってきた。CIRMFの研究者らは、コウモリの標本を採取し、コウモリがエボラウイルスの宿主であることを確認した。

 マガンガ氏は、コウモリ間ではさまざまなコロナウイルス株が広がっていることも突き止めている。中には、ヒトに感染する新型コロナウイルス株に近いものもある。

 映像は2020年11月に取材したもの。(c)AFP/Adrien MAROTTE