「密猟者の楽園」 パキスタンのハヤブサがアラブの富豪に渡る現実
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■「湾岸諸国のための客引き」
毎年冬になると湾岸諸国から、ぜいを尽くしたタカ狩りの一行が次々とパキスタンの広大な砂漠に押し寄せる。ここではハヤブサを使って渡り鳥のフサエリショウノガンを狩猟する許可が与えられている。フサエリショウノガンは、その肉が媚薬(びやく)になると誤解され珍重されており、自然保護団体によって「絶滅危急種(Vulnerable)」に分類されている。
このタカ狩り旅行により、パキスタンと同盟関係にある湾岸諸国との深いつながりが浮き彫りになっている。
何十年にもわたり、湾岸諸国はパキスタン政府の財政を惜しみない融資によって支えてきた。同国をタカ狩りの場として利用し続けられることへの期待も背景の一つだ。
2020年12月、パキスタンのイムラン・カーン(Imran Khan)首相の政権は、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(Crown Prince Mohammed bin Salman)と他の王族2人にフサエリショウノガンを捕獲する許可を与えた。ソフトな外交戦術の一つだが、カーン首相は野党時代にこうした方策に対して公然と異を唱えていた。
「政府の職員が、まるでアラブ諸国の客引きのように働いている」と、ある職員は匿名でAFPに語った。
■増加する需要
ハヤブサが渡りを行う季節の間、アラビア海(Arabian Sea)の沿岸にある村々に密売人らが押し掛け、漁師らに漁を中断して陸の密猟に手を貸してほしいと現金を渡す。
匿名を条件にAFPの取材に応じた密売人の一人は「漁師らには前金で支払いをし、彼らの家族には食料を送り、高価な鳥を捕獲した場合は喜んでオートバイを与える」と話した。
密猟者から特に狙われるのが、ペレグリンハヤブサとセーカーハヤブサだ。ペレグリンハヤブサの個体数は安定している一方、セーカーハヤブサは絶滅の危機にある。
ベテランのハヤブサ保護活動家ボブ・ダルトン(Bob Dalton)氏は、パキスタンの関係当局が昨年10月に押収したハヤブサ数十羽を野生復帰させる活動の手助けをした。押収されたハヤブサの価値は合計で100万ドル(約1億円)を優に上回ると、当局は推定している。
「不法取引は増加している。湾岸諸国からつぎ込まれる金が増えており、湾岸諸国からの需要も増大している」と、ダルトン氏は語る。
パキスタンのタカ狩り協会(Falconry Association)のカムラン・カーン・ユスフザイ(Kamran Khan Yousafzai)理事長は、同国では持続可能な野生生物の管理計画の実施が不可欠となっていると指摘する。
「アラブの鷹匠たちは、パキスタンに来るのを我慢できない。彼らは数世代にわたってこちらの狩猟場にやって来ており、深刻な問題に直面しない限り、新たな場所を探すつもりはない」と、ユスフザイ理事長は語った。(c)AFP/Zain Zaman Janjua