【1月3日 AFP】イラクの首都バグダッドの歴史ある通りに店を構える時計修理職人、ユセフ・アブドルカリーム(Youssef Abdelkarim)さん(52)。3世代続く小さな店は、腕時計に埋め尽くされたまさにタイムカプセルだ。

 ラシード通り(Rasheed Street)に面したショーウインドーには、フェルトの箱に入ったアンティーク時計が一列に並んでいる。対照的に店内は腕時計が山積みになっていたり、壁からぶら下がったりしている。床に置かれたバケツ、段ボール、棚、スーツケースにもびっしり時計が詰まっている。

 アブドルカリームさんは店の隅で木製の古い机に座り、身をかがめてアンティーク時計をのぞきこむ。「すべての時計に個性がある。自分の子どものように、その個性をできるだけそのままにしようとしている」。アブドルカリームさんは太い黒縁の眼鏡越しに目を細めながらAFPに語った。

 1940年代に店を始めた父方の祖父は亡くなる前に、アブドルカリームさんの父親に店を譲っていた。アブドルカリームさんは祖父の死後、父親に教わりながら11歳で時計修理を始めた。

 アブドルカリームさんは1万ユーロ(約130万円)はする「パテックフィリップ(Patek Philippes)」や、「貧しい男の時計」と呼んでいる「シグマ(Sigma)」などスイスの高級腕時計の修理を手掛けてきた。

 イラクの独裁者だった故サダム・フセイン(Saddam Hussein)の時計も直したのではないかと思っている。「大統領府から持ち込まれた珍しい時計の裏に、サダムのサインが入っていた」

 その時計の修理費用は400イラク・ディナールだった。1980年代には1000ドル(約10万円)に相当する額だったが、今のレートでは1ドル(約103円)にも満たない。

 あれから多くのことが変わった。アナログの腕時計はデジタル時計に置き換わり、今ではさらにスマートフォンに取って代わられた。

 だが、アブドルカリームさんは、アナログ腕時計は過去のものではないと主張する。そしてウインクをしながら「男の優雅さは時計から始まる。そして靴だ」と語った。