【1月6日 AFP】ある暖かい冬の日、米テキサス州の最大都市ヒューストン(Houston)のシーフードレストランでは、何人かの女性客がヤシの木陰のテラス席に腰掛け、地元産のカキ料理を楽しんでいた。

 彼女らには、1人の女性がレストランの裏側でカキの殻に第二の命を吹き込もうと慌ただしくしていることなど、想像も及ばないだろう。

 レストランから約10キロ離れたガルベストン湾(Galveston Bay)の保護団体、ガルベストン・ベイ・ファンデーション(Galveston Bay Foundation)のシャノン・バッテ(Shannon Batte)氏は、人目につかないところで、カキの殻やレモンの搾りかすなどが入った重さ約80キロのごみ箱7個を自分のトレーラーに積み込む。

 バッテ氏は1年を通し、毎週月・水・金曜日に提携しているレストランを巡回している。これらのカキの殻はやがて、ガルベストン湾の礁の一部となる。

 同団体によると、提携レストランの一つ、トミーズ・レストラン・アンド・オイスターバー(Tommy’s Restaurant and Oyster Bar)の経営者、トム・トレット(Tom Tollett)氏は「私たちのお客さんは、カキがどこで取れたのか、そして殻をどうするのか、とても知りたがっています」と話している。約10年前の2011年3月に初めてカキの殻が回収されたのは、この店だ。

 その後事業は拡大し、今ではレストラン約10店舗から殻が回収されている。

■「生きた海岸線」

 ガルベストン湾には、川からの淡水が、メキシコ湾(Gulf of Mexico)からの海水と混じり合うことによって、魚介類が豊富に取れる生態系が築かれている。

 テキサス州が合衆国に併合された1845年時点で、ガルベストンの町にはすでに独自のオイスターバーがあった。

 しかし、2008年9月に米国で113人が犠牲となったハリケーン「アイク(Ike)」によって、カキ礁は土砂に覆われ、生息地の半分以上が破壊された。

 生態系を復活させるため、今では毎年春になると海底の岩の上にカキの殻が投入される。流れの強い場所では、網の中に殻を詰め、ダムとして設置する。

 こうして、新たな生息地が誕生。波を砕くことで、土壌浸食の対策にもなる。

 ガルベストン・ベイ・ファンデーションのカキ生息地回復担当者は、「護岸壁のような強固な構造物とは対照的に、『生きた海岸線』を築くことができる」と説明する。

 同団体はこれまで、この方法で30キロ以上の海岸線を保護し、20ヘクタールもの塩沼を回復させてきた。

 2012年には54トン、2019年には125トンの殻を収集。新型コロナウイルスの流行にもかかわらず、2020年にも111トンを集めた。

 いったん海中に沈められれば、カキの殻はカニやエビ、小魚にとってうってつけのすみかとなり、これらがより大きな魚の餌となることで環境の多様性につながっている。(c)AFP/Francois PICARD