複雑に機能する時計のムーブメントは、もはや小宇宙といっても過言ではない。スーパースポーツカーにとってエンジンが大切なように、時計選びもエンジン=ムーブメントがキモなのだ!

FAVRE-LEUBA(ファーブル・ルーバ)/レイダー・ビバーク 9000
世界初の機械式・高度計(アネロイド気圧計)搭載モデル、初代「ビバーク」のDNAを継承し、2017年に発表された現行版。標高3000mで1周するセンターの針と3時位置のインダイアルが連動し、9000mまでの高度(及び気圧)を測ることができる。12時位置にはパワーリザーブ表示を搭載。デザインは14角の回転ベゼルや独自のクッションケースなど、同社の伝統的なスタイルを踏襲。手巻き。チタン、ケース直径48.0㎜、30m防水。税別85万円。

新開発Cal.FL311は特殊合金製の密封カプセルを主体とする気圧・高度計モジュールを搭載。海抜0m〜9000mでわずか0.3㎜というカプセルの厚みの変化を精巧なギアで指針に伝達する。

FAVRE-LEUBA

時計好きなら、このモデルの面立ちを見た瞬間"おや?"と思うだろう。シックなグレーフィニッシュのダイアルに、やけに意味ありげなレッドの指針。インダイアルの数値を確認し、気圧や高度を示すものだと思いあたったところでおおかた予想がつくだろうか。……正解。

このモデルは高度と気圧を表示し、登山などで活躍する類い稀なアウトドア・ウォッチなのだ。もっとも高度計を備えたモデルは現代において珍しいものではない。ただ、それらは基本的にクオーツ式。

だが、「レイダー・ビバーク 9000」は純然たる機械式だ。くだんの高度計測機能もゼンマイと歯車によってなされる、というミラクル。このモデルは1737年創業の古参、ファーブル・ルーバが1962年に発 表したアネロイド気圧計の現代版。気圧変化に応じて膨張・縮小する金属製カプセルの動きを表時機構に変換し、正確な高度を表示する。

初代は計測値が標高3000mまでだったが、本作で9000mに進化した。エベレスト登頂だってOKだ。この時計を手にすれば、意識は自ずと天上に向き、雄大な山頂への憧憬が募る。唯一無二の"エンジン"には確かな技術力と、甘美なロマンが潜む。

文=川口哲郎 写真=近藤正一
(ENGINE2021年1月号)