【12月25日 東方新報】中国では早朝、ゆったりとした動きで太極拳をしている市民の姿を見かけることが多い。公園や住宅街の広場、さらには職場。路地裏でお年寄りたちが集まったり、病院の中庭で白衣の看護師たちが同じポーズを取ったり、日常社会に今も浸透している。その太極拳が17日、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。現在、太極拳は各流派が個別に活動しており、無形文化遺産の登録を機に太極拳の標準化の機運が高まっている。

 無形文化遺産登録直後の19日、太極拳発祥の地・河南省(Henan)温県(Wen)陳家溝(Chenjiagou)に陳氏、和氏、楊氏、呉氏、武氏、李氏、王其和(Wangqihe)氏の7流派代表が集まった「太極拳継承発展フォーラム」が開かれた。各流派の代表がそれぞれの太極拳を披露。陳氏太極拳継承者の陳正雷(Chen Zhenglei)氏は「太極拳の標準化を実現することが将来の発展の鍵となる」と述べ、ハイレベルな教育者を育成する太極拳アカデミーの建設を呼びかけた。

 太極拳は陰陽循環(万物は陰と陽の循環で成り立っている)と天人合一(天と人は本来一体)という中国の伝統思想に基づき、17世紀半ばに成立したとされる。陳氏太極拳を起源とし、弟子たちがそれぞれの流派を興している。

 激しい運動がなく場所も選ぶ必要がない太極拳は健康体操として市民の間に広がっている。一方、武術としての太極拳は各流派が独自に活動し、住み込みの弟子が師匠の身の回りの世話をするような徒弟制度も残っている。流派を越えた取り組みをしないと新しい世代の参入が滞り、武術としての太極拳がいずれ廃れてしまう危機感もある。

 19日のフォーラムで温県の李沛花(Li Peihua)市長は「わが県には約3500人以上の太極拳の指導者がいる」と紹介。指導者を育成する「太極拳職業教育センター」と太極拳を学ぶ「河南太極拳学院」を設立すると明らかにした。

 楊氏太極拳継承者の王少順(Wang Shaoshun)氏は「若者が強くなれば国も強くなる。優れた伝統文化を継承・普及させていくことが重要であり、幼少期から太極拳を学ぶ機会を与えたい」と強調した。文化観光部無形文化遺産局の王晨陽(Wang Chenyang)氏は「ユネスコの無形文化遺産に登録された太極拳を継承・発展させていくのは私たち世代の義務だ」と強調した。

 太極拳は現在、約150か国・地域で約3億人が習練しているといわれる。力まずゆったりと、体の軸を保ってまっすぐ立つ太極拳の基本姿勢のように、本家・中国の太極拳関係者が一体となって「軸」を保ち、国内外に太極拳を広めていくことが求められている。(c)東方新報/AFPBB News