■「私は自由」

 今日のアリアさんは、脱出の途中で戸惑い、心配ばかりしていた頃のアリアさんとは違う。希望と恐怖のはざまにいた頃から変わった。

 ベネズエラからの亡命希望者や、ポーランド人女性の友達ができたことでエネルギーが湧き、うつ状態からも抜け出した。友人らとともに、アリアさんはオランダを新たな視点で見つめ始めた。外出を楽しんだのは、数年ぶりだった。

 中東の保守的な慣習を良しとしていなかったアリアさんは、女性の権利が尊重される環境をうれしく思っている。「ここでは、すべてから解放されています」。アリアさんの髪は英国のポップスター、デュア・リパ(Dua Lipa)のアルバム『フューチャー・ノスタルジア(Future Nostalgia)』のジャケットのようなツートンカラーだ。

■「すべては可能」

 イラクの親戚を恋しく思い、目に涙を浮かべながらも、アリアさんは「もう後悔していない」と語った。

 アリアさんは、イラク出身であることをいつも誇りに思っている。アダム君にはさまざまな話をしたり、家でアラビア語を使ったり、アプリ「フェイスタイム(FaceTime)」で普段から祖母と会話させたりして、その誇りを伝えている。「息子はここで育ちます。けれど自分がどこから来たのかを知る必要があります」

 アリアさんはメーキャップアーティストか、ヘアカラースペシャリストを目指して訓練を受ける予定だ。アフマドさんは運転免許試験を受けるための勉強をしており、将来は物流業界で起業することを夢見ている。

 4年間滞在すると、オランダ国籍を取得する資格が生じる。アフマドさんは「われわれを受け入れた国で権利と責任を行使するために」、免許が取れたら申請するつもりだという。

「先の道のりは長いですが、最悪の事態は乗り越えました」とアフマドさん。「今は、すべてが可能です」

 アリアさんは2人目を妊娠中だ。おなかの中の子どもも、いつか両親と同じように欧州市民になる。(c)AFP/Serene ASSIR