クラシックカー・ラリーにエントリーするクルマの年代に合わせてファッション・コーディネートも楽しむというオシャレな母娘を群馬に訪ねた。

取材は60年代のファッションで

クラシックカー・ラリーの世界はファッショナブルである。ドライバーとコ・ドライバーの2人1組で戦うわけだけれど、強いチームは自分たちのファッションにも気を遣っていて、たいてい自分たちがその日エントリーしたモデルの年代やブランドに関連したものか、イベントに由来するウェアをお揃いで着こなしておられる。頭から爪先まで二人揃っている方が断然かっこいい。そして、競技性が強くなればなるほどスポーティな装いになっていく。

コンペティションにふさわしい機能的なユニフォーム・スタイルがオススメ、というわけだが、この二人はいつも違っている。スタートの朝からパーティが始まるかのようなお揃いのファッションで現れては、ギャラリーやエントラントの注目を集めている。

レストレーションから仕上がって4年ぶりに帰ってきたばかりの1962年式356Bカルマン・ハードトップ・クーペ。

ミユキさん、エミイさんの母娘だ。撮影の日も356でラリーに出ると思って場所まで来て、とお願いしておくと、60年代スタイルのヘア&メイク、ファッションで来てくれた。エミイさんは「ミニの女王」ツィッギーを意識したスタイルで、母ミユキさんのコーディネーションも彼女が考えた。二人とも本当に頭から爪先までバッチリ、キマッている。

エミイさんはプロのシンガーソングライターで、来夏には9枚目のアルバムを出そうと、現在曲作りの真っ最中らしい。群馬特使や地元安中市の観光大使も務めている。普段遣いは白のマカン。仕事で東京と群馬を行ったり来たりすることが多いから、4年間でなんと21万キロも乗った。新幹線の方がラクじゃない?と尋ねてみれば、「公共の交通機関ってパンクチュアルだから焦るの」と曰った。「発車時刻にね、駅に着いたら電車がもう出て行ってしまっていて」。なるほど、海外生活が長かったから、かも知れない。

356 Bのカブリオレをベースにカルマン社が固定式のハードトップモデルとしたもの。61年(T5ベース)と62年(T6ベース)の2年間のみ作られた。中でもT6ベースはT5に比べて生産台数も100台以下と極めて少ない。ルーフのデザインが通常の356クーペとは違っており、リアの居住性の良さが特徴だ。

62年式の356

クルマ好きの父の影響で最初はナビゲーターとしてラリーに出た。けれどもコマ図を見て父に指示する役では次第に我慢できなくなっていく。自分もドライバーとして走ってみたい。そう思ったエミイさんはAT限定免許を解除し、ドライバーとしてラリーデビューを果たすことになった。2016年のことだ。

海外ラリーの予行演習として初めて出場した国内大会でたまさかの区間賞を取り、一層ラリーが楽しくなった。そして同じ年の暮れ、この62年式356カルマン・クーペとともに、晴れてラリー台湾に母ミユキさんと参戦したのだった。

濃いスレート・グレーのボディとベージュの内装の組み合わせがオシャレ。

台湾は「すごく楽しかった」と二人声を揃える。「今日みたいに衣装合わせて出たものだから、どこへ行っても一緒に写真撮影をせがまれて。ラリー中ずっと追っかけてくる人もいたの。台湾のファンも増えたわ」。「みんながとってもウェルカムで盛り上げてくれるのがもう嬉しくて」、と母も娘と出るクラシックカー・ラリーの魅力にすっかりハマった。

もっともクラシック・カーでしかMTを運転したことのないエミイさんである。坂道発進などで苦労することも多く、台湾ではずいぶんとクラッチを減らしてしまった。日本に戻ってくれば、無事完走できたことが奇跡のような状態だった。

もともとこのカルマン・クーペは新車で正規輸入された356BのT6ベース(ほとんどがT5ベース)という貴重な1台だったが、購入時点からボディ周りを含めて気になる箇所も散見された。そこで台湾から戻った機会にフルレストレーションを施すことに。なんと撮影の数日前に仕上がって帰ってきたばかりだった。ちなみにカルマン・クーペとは、356カブリオレをベースにコーチビルダーのカルマン社が固定ハードトップ化したモデルで、61年と62年の2年間のみ生産された。特異なルーフ・スタイルが実用性の高さを物語っている。

「ザ・クラシックカーなのよ、356って。ハンドルは重いし、シフトは入りづらい、クラッチの繋ぎもシビアで。だから、一番好き。現代のクルマって言ってみればどれに乗っても同じでしょ? でも、この時代のクラシック・カーって、モデルはもちろん個体が違っても乗り味が変わったりして。モデルごと、クルマごとに個性がある。自分自身が他人と同じじゃ我慢できないタチだから。被らないことが大事っていうか」

356がレストレーションに出ている間はもっぱらこの71年式914 1.7か父のBMW2002ターボでラリーに参戦した。ワインディング・ロードや高速道路では914の方が圧倒的に楽しく、356に比べれば坂道もラクという。エミイさん自身はRRとミドシップの違いやメカニズムもよくわかっていないと言うけれど、乗ればまるで違うと分かるあたり、感性の鋭いドライバーというわけだ。エミイさんはラジオ高崎「Very Merry Emii」に毎週土曜日、生出演する。www.emii.jp

356の居ない間、エミイさんのパートナーは914に代わった。「356とは違う楽しさがあり、スポーツカーという感じが強い。モダンカーに負けない走りというか。高速も安定しているし、パワーもあって坂道もラク。特にワインディング・ロードが楽しい!」。

それは914がよくできたミドシップ・カーだからだろうね、と肯くと、「エミイね、クルマのメカニズムとか何もわかんないし知らない。フィーリングが大事なの。音楽だってそうよ。理屈も分からずに曲のアレンジをすると、曲作りのプロから褒められたりするわ」。そう謙遜するけれど、彼女はバークリー音楽大出の才媛でもあった。

「クルマに乗る時しか音楽は聴かない。普段はあまり飛ばさないようにバラード、とか。乗るクルマや行先での目的に合わせて車内で聴く音楽を決めるの。それとファッションも。だからラリーでも必ず母と一緒にコーディネートする。ほら、エミイってクルマの知識ないじゃない? 競技だって上手いわけじゃないし。だから詳しいおじさんたちの中で光るためにはクルマを含めたファッションのトータル・コーディネートで勝負するほかないな、って」

クルマは考えて乗るものじゃない。フィーリング、つまりは乗る人の感性にどう響くか、が大切。なるほど、ごもっとも。そんなエミイさんにとって普段遣いのマカンはやっぱりポルシェ、なのだろうか?

「背は高いけれどコーナリングはいいし、スポーツ・モードなら走りだって楽しめる。ノーマル・モードではとても快適で。サイズはちょうどいいし、荷物もガンガン積めちゃう。普段から気を使わずに乗れてしまうのに、楽しさもあるって凄いと思う。それにポルシェって景色がみんな似ているから安心して乗れるのよ。父のGT3をドライブした時も全然焦らなかった。ビビらないっていうか。でも雨の日は怖かったな~」

ポルシェは感性豊かな女性をも虜にしてやまない。

文=西川 淳 写真=茂呂幸正

(ENGINE2021年1月号)