【12月21日 AFP】ジャンク船と呼ばれる伝統的な木造帆船「鴨霊(Dukling)」号は、60年以上にわたり、赤い帆を揚げて香港のビクトリア・ハーバー(Victoria Harbour)を航行してきた。

 しかし、香港で最後の一隻となったこの古いジャンク船は、今月香港で新型コロナウイルス感染症の第4波に対する新たな措置が導入されて以来、着岸したまま、存続が脅かされている。

 鴨霊号の運営会社の事業開発担当ディレクター、シャーロット・リー(Charlotte Li)氏はAFPに、「近い将来、私たちは存続が非常に難しくなるだろう」と語った。

 船の運営には少なくとも作業員が4人必要だが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)中に、賃金の削減をめぐり2人が辞めてしまい、人手が不足している。

 旅行代理店、ツアーガイド、大規模パークには支払われたコロナ関連の公的補助金の対象から鴨霊号のようなアトラクションが除外されたことを受け、リー氏は、当局は小規模な民間企業を「気にとめていない」と感じている。

 老朽化が進む香港のテーマパーク「香港海洋公園(Ocean Park Hong Kong)」はパンデミック以前から赤字を出していたが、政府から数十億香港ドルという多額の救済措置を受けている。

■「動く博物館」

 ジャンク船の起源は漢(Han)王朝(紀元前206~紀元後221年)にさかのぼり、伝統的に漁業や移動に使われてきた。

 鴨霊号は1955年にマカオ(Macau)で建造され、本物のジャンク船としては最後の一隻。他の船は現代に造られた複製だ。観光アトラクションに使われる前は、香港の漁師が20年間所有し、船上で家族と暮らしていた。

 最近の規制が実施されるまでは、客層を国内の観光客や学童に切り替えることでなんとか乗り切ってきた。しかし、今や収入源が断たれてしまった。

 リー氏は、今後パンデミック中に何があっても鴨霊号を保全するよう、当局各所に呼び掛けている。

 船には、観光アトラクションとしてだけではなく、香港の漁業の伝統と街の歴史を保全するという使命もあるとリー氏は語る。

 リー氏は「この古い船には歴史と物語が詰まっている」と言い、「動く博物館、漁業博物館なのだ」と訴えた。(c)AFP/Celia CAZALE