【12月12日 Xinhua News】日本政府は2020年、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策を打ち出し、この中に生産拠点の国内回帰を希望する企業に対する2435億円の財政支援を組み込んだ。経済産業省は7月、第1弾の企業リストを公表し、87社が730億円の移転補助金を受け取った。8月5日には第2弾に1670社が申請したことが判明し、メディアは「1700社以上の日系企業が列をなして中国を離れる」と盛んに報じた。

 華南地域の広東省(Guangdong)深圳市(Shenzhen)、広州市(Guangzhou)、東莞市(Dongguan)、仏山市(Foshan)にある日系企業と中国に駐在する日本の機関を調査した結果、日系企業の大半は中国から撤退する計画がなく、一部の日系企業は新型コロナ感染症の影響を理由に、中国での増資と生産拡大を決めていることも分かった。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)北京代表処の調査によると、2015~19年、日系企業の中国における事業拡大・維持・縮小の割合はほぼ横ばいとなっている。事業縮小を計画している企業の割合は比較的少なく、8・8%だった15年を除き、16~19年はいずれも5・0~5・4%だった。ジェトロ広州事務所が20年4月に華南地域の日系企業約3500社を対象に実施した調査では、91・7%が中国での事業を移転する予定はないと回答し、2月の調査から6・9ポイント上昇した。

 同事務所の清水顕司所長は、日本政府のサプライチェーン改革計画は決して「中国からの撤退」を前提としたものではなく、補助金を申請した企業の大部分が、新規プロジェクトに注力しているか、以前から生産ラインを日本国内や東南アジアに移す計画を持っていたと説明。「政府の政策の方向性が企業の投資決定に影響を与えることはない」と述べ、日系企業の大半が中国市場を目的として中国に投資しているため、離れることはないとの考えを示した。

 画像処理AIなどを手掛ける日本企業のモルフォは18年、中国に摩爾図像科技(深圳)を設立。現在、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ、Huawei)やスマートフォン大手、小米科技(シャオミ、Xiaomi)などの中国企業にサービスを提供している。摩爾図像科技(深圳)の董事でプロダクトディレクターの鄭鳳竜(Zheng Fenglong)氏は、海外子会社の中で中国子会社が最も好調で、中国から撤退する計画は全くないと説明。急速に進歩する中国企業と巨大な中国市場で競争するために、絶えず製品の研究開発を行っていると述べた。

 旭硝子新型電子顕示玻璃(深圳)の宇賀神宏之総経理は、感染症流行の下で電子製品に対する需要が高まっており、同社が現在、急ピッチで生産を進め、川下に当たる中国企業に直接供給していると説明。中国市場の全体的な位置付けを考えた場合、撤退する予定はなく、その上、製品の世代交代の速さは親会社を上回っているため、市場に明るい見通しを持っていると語った。

 パナソニックなど多くの著名日本企業に法務サービスを提供している広東卓建律師事務所の弁護士兼パートナー、尹秀鍾(Yin XiuZhong)氏は、中国、特に華南地域では、ほとんどの日系企業が製造業であり、もともと中国市場向けの事業を行っているため撤退する可能性が低く、いわゆる東南アジアやインドへの移転については、親会社が中国事業を維持しつつ多角的な事業拡大を図る場合が多いと指摘。日本のハイテク企業がここ数年、広東省や上海市、江蘇省(Jiangsu)に相次いで進出し、中国での販売や研究開発を主に進めており、中国の巨大な市場や整備された産業チェーン、十分な人的資源は東南アジア諸国とは比較できないほど優位性を持っていると述べた。さらに、日本の金融機関がそろって中国に進出し、地方都市と科学技術プロジェクトの協力を開始していると紹介した。

 日本の自動車部品メーカー、三桜工業は12年、広東省東莞市に三桜(東莞)汽車部件を設立した。同社人事総務部の金仙女(Jin Xiannv)部長は、本社から派遣された日本人従業員は2月10日に中国に戻り、新型コロナ感染症が工場の操業に影響を与えることはなかったと説明。製品の95%が中国国内メーカーに供給されており、原材料の調達も全て中国で行うため、受注は安定しているとし、本社には今後3~5年以内に産業チェーンを移転する計画も、他国への投資を増やす計画もないと語った。

 2002年設立の東莞佑能工具は日本の工作機械メーカー、ユニオンツールが100%出資した海外子会社で、主に精密NC加工用高速超硬工具やドリル研磨機の製造・販売を行っている。同社総務部の陳吉輝(Chen Jihui)副経理は、2月17日に工場が操業を再開した後、材料の調達や販売に大きな影響はなかったと振り返った。同社が考えているのは中国からの撤退ではなく、工場建物を新しくして生産能力をどう引き上げていくかだという。

 仏山早稲田科技服務は、主に華南地域に拠点を置く中国や日本の企業に対し、環境診断やコンサルティング、中日間のビジネスマッチングなどを提供している。林慈生(Lin Cisheng)董事長は、新型コロナ感染症の発生後、日系企業は中国での産業チェーンを改善しながら、倒産した中国企業を意識的に買収して投資を拡大したと説明。「世界で正常に生産できるのは中国のメーカーだけなので、多くの日系企業は移転を望まないばかりか、むしろ投資を増やして生産を拡大する意向を持っている」と語った。

 深圳市海内外建築装飾工程広州支社の岩本敏弘総経理は、同社がサービスを提供している華南地域の日系企業には生産チェーン移転の補助金申請をした企業は1社もないと説明。地元政府がメーカーに対して合理的に発展の余地を与える限り、企業が離れることはないと述べた。

 中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院の鍾飛騰(Zhong Feiteng)研究員は、日系企業が20年前から中国市場を重視していたが、当時の中国は全体的に産業チェーンが整備されていなかったため、主に労働集約型産業への投資受け入れが中心で、日本の業界や多国籍企業の主要な競争相手にはならなかったと説明。現在、中国の経済規模は既に日本の3・5倍となり、世界最大規模の中産階級を抱え、新たな勢力となっているため、中国市場の重要性は今後さらに顕著になるとの見方を示した。(c)Xinhua News/AFPBB News