【12月18日 AFP】マレーシア・クアラルンプール郊外で配達員として働くムハンマド・シデク・オスマン(Muhammad Sidek Osman)さん(21)は、自らの小さな体にフィットするようにカスタマイズした四輪バイクに乗り、車の間を見事に走り抜けて客に料理を届ける。

 分娩(ぶんべん)時の異常によりムハンマド・シデクさんの腰は曲がっている。身長は108センチで、階段を上るのも困難が伴う。「このような体だから、働くのは少し難しい。何をするのも少し難しい」と配達員らが集まる場所でAFPに語った。

 だが、カスタマイズした専用のバイクに乗ると、まるで別人のようになる。レストランから客の家にあっという間に料理を届けるのだ。

 ムハンマド・シデクさんにとって、物事は簡単には進まず、今は輸送・配達サービスのアプリ「Grab」の仕事をしている。不自由な体を理由に、フルタイムの仕事がもらえない状態がしばらく続いたため、自営でデリバリーの仕事をする他に選択肢はなかった。

 それでも仕事に対しては「他の配達員や客とのかかわり」を楽しんでいると話し、あくまで前向きだ。

■「君はここで働けるのか?」

 体の不自由な人々にとって、ここでの生活は容易ではない。車いすのアクセスをはじめ、インフラ面での障害者支援はほぼない状況だ。

 学校卒業後、ムハンマド・シデクさんは「普通の仕事」につくことができなかったと振り返る。雇用者らからは、ちょこちょことしか仕事がもらえず、それについての説明もなかった。

 ある就職の面接では、背が高い人を求めていると言われ、「君は本当にここで働けるのか」と質問されたと話した。

 だが、ムハンマド・シデクさんは過去をいつまでも引きずらない。新型コロナウイルスが大流行するなかでも定収入があることがうれしいと言う。

 彼が配達員の仕事を始めたのは、3月半ばにマレーシア全土でロックダウン(都市封鎖)が実施された直後だった。何週間もの間、多くの事業所が閉鎖され、人々は自宅に閉じこもった。

 感染拡大とともに、人々は飲食や買い物のために外出することをしなくなった。そして、ムハンマド・シデクさんは配達員が果たす役割の大きさを実感した。「ロックダウンの間、われわれ配達員は最前線に立っている。なぜなら料理を配達することで感染者が増えないようにし、人々を守っているからだ」と語る。 (c)AFP/Patrick Lee