【12月6日 AFP】マスクを重ね付けし、フェースシールドと防護服を身に着け、本人いわく宇宙服のような格好のジョセフ・バロン(Joseph Varon)医師は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の方にかがみ込み、患者が持つスマートフォンに向かって手を振った。

 ビデオ通話の相手は、患者の命を救ったバロン医師に会えた喜びを伝えている。米国では新型コロナウイルス感染症による死者が27万8000人を超え、今も増え続けている。

 バロン医師が医局長を務めるテキサス州ヒューストン(Houston)のユナイテッド・メモリアル医療センター(United Memorial Medical Center)は、北部の低所得地域に住むマイノリティー患者を主に治療する小さな病院だが、感謝祭の日に高齢のコロナ患者を抱きしめるバロン医師の写真が拡散されると、大きく取り上げられた。

 しかし、この医師は間違いなく疲弊している。

 バロン医師の連続勤務260日目に当たる4日、AFPは同行取材を行った。

 自宅で過ごせる1日わずか数時間の間にも、ひっきりなしに電話がかかってくる。一晩の睡眠時間は1、2時間だという。

 バロン医師はAFPに、「スタッフはとても疲れている。看護師たちは真っ昼間から泣いている。受け入れ患者数に圧倒され、看護師たちは精神的に参ってしまう。本当に疲れ切っている」と語った。

 コロナ患者専用の集中治療室(ICU)のベッドは満床だ。スタッフは患者のバイタルサインを測定し、患者の様子を確認する。バロン医師も毎日回診する。

 夏にテキサス州全域で感染者数が急増すると、バロン医師らは軍の専門家チームから医療支援を受けた。しかし軍のチームはすぐに移転してしまい、バロン医師はスタッフらと働き続けた。

 それでも、何らかの応援は得られている。パンデミック(世界的な大流行)が始まって以降、じっと耐える看護師がいる一方で、全国各地を移動して危機的な場所に急行する看護師らがいる。

 こうなるべきではなかった、とバロン医師は考えている。

 米国民が何度も感染拡大を阻止できなかったことについて、バロン医師はいら立ちをあらわにしてきた。

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領の支持者として知られる共和党のグレッグ・アボット(George Abbott)テキサス州知事は、4月に州内で1か月間のロックダウン(都市封鎖)を命じたが、その後は実施していない。

 テキサス州では7月までマスクの着用が義務化されず、新規感染者数は急増し、同州は新たな感染拡大の震源地の一つとなった。それでもアボット知事は、再びロックダウンを実施することはないと述べている。

 バロン医師は話題になった写真について米CNNの取材を受けた際、「バーやレストラン、ショッピングモールに多くの人が出掛けている」と述べ、「クレージーだ。忠告を聞き入れなかった人々が、私のICUに来ることになる」と警告した。また、人々が保健衛生やソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)に関する基本的なガイドラインに従えば、「私たち医療従事者はうまくいけば休むことができる」と述べた。

 最近受けた米ABCのインタビューでバロン医師は、クリスマスシーズンから新年にかけての今後6~12週間が「米国の近代医療史で最も暗い」時期になるとみていると語った。(c)AFP/Mark FELIX with Sarah Titterton in Washington