【12月5日 AFP】木々に覆われた斜面が、とがった頂に続く。ボスニア・ヘルツェゴビナの町ビソコ(Visoko)を見下ろす「ピラミッドの丘」は、バルカン諸国で目にする他の丘と何ら変わらないように見える。

 だが、男子テニスのノバク・ジョコビッチ(Novak Djokovic)選手(セルビア)のような著名人をはじめ、同地を訪れる多くの人々は、そうは見ていない。

 科学者らがそうではないと暴こうとしているものの、この丘が古代に造られたピラミッドの一部で、癒やしの力を秘めていると信じている人がまだ大勢いるのだ。

 ジョコビッチ選手は、一風変わったスピリチュアルな考え方や習慣を持つことで知られる。今年同地を2回訪れ、「地球の楽園」とたたえた。

 首都サラエボ郊外にあるこの丘は、自称探検家のサミール・オスマナギッチ(Semir Osmanagic)氏(60)が2005年に「発見」した。以前、米国を拠点とする実業家だった同氏は、地下トンネルも含めた一帯の土地を購入。数年後、丘を含む「ピラミッド公園」を開業した。

「これが自然の丘ではなく、技術的に優れた文明による建造物だったことは、私には明白でした」とオスマナギッチ氏は述べ、「これまでに造られた最大で最古のピラミッド」だと主張した。

■考古学者らは「疑似科学」「詐欺」

 考古学者らは長らく、この説は疑似科学だと異議を唱えており、丘は自然の地形だと指摘している。

 指摘もむなしく、オスマナギッチ氏は何百人かのボランティアとともに丘で「考古学的発掘」作業を行った。

 ジョコビッチ選手は今年7月と10月に「ピラミッド公園」を訪れ、「スポーツ選手を全員ここへ招待して、トンネルで過ごしてもらいたい。肺の酸素が増す大きなメリットがある」と語っている。

 10月にはAFPに、同地の信ぴょう性について多くの疑念とジレンマがあることは知っているとした上で、「ここで何が起こっているのかを完全に理解するために(中略)訪れる必要がある」と語った。

 公園の入場料は、5ユーロ(約630円)。地下トンネルへの入場料も含まれており、オスマナギッチ氏は、トンネルは癒やしの電磁波を出していると主張している。

 同氏は公園のツアーで、参加者らを地下の小部屋に案内し、滑らかな岩の上に手をかざして「エネルギー」の高まりを感じるよう促した。また、同地をコロナ禍に「免疫力を高める」場所として宣伝してきた。

 サラエボ大学(University of Sarajevo)で考古学を専門とするエンベル・イマモビッチ(Enver Imamovic)名誉教授は、この取り組みは完全な詐欺だと指摘する。

 イマモビッチ氏はトンネルは「古代の金鉱の遺物」である可能性が高いとし、ピラミッドの構成要素と信じられている丘の斜面の石のくさびは「自然のものにすぎない」と指摘した。

 映像は10月15、24、28日撮影。(c)AFP/Rusmir SMAJILHODZIC