■「知ってさえいれば」

 スウェーデン政府の感染症対策を率いる疫学者で、同国の緩やかな新型コロナ対策の顔であるアンデシュ・テグネル(Anders Tegnell)氏は、2009~2010年の大規模なワクチン接種を呼び掛けた保健局の専門家の一人だ。

 テグネル氏はAFPとのインタビューで「副作用について知っていたら、われわれの決定は当然、全く違うものになっていたでしょう。だが副作用は完全に未知のもので、誰にとっても驚きだったのです」と語った。

「パンデミック(世界的な大流行)時の最善策はワクチン接種だという長年の国際的コンセンサスがあり、実際にそれが唯一の長期的解決策なのです」

 テグネル氏はスウェーデン国民の不安は理解すると述べ、今後、どんなワクチンでも接種を義務化する可能性を否定した。

 ただしスウェーデン公衆衛生局のヨハン・カールソン(Johan Carlson)局長によると、新型コロナの感染拡大を阻止するためには、人口の60~70%のワクチン接種が必要だという。

■一人一人の判断

 ストックホルムでソーシャルワーカーとして働くハナ・レーン(Hannah Laine)さん(37)は新型コロナのワクチン接種について、不安はあるが、自分と夫、3人の子どもは必ず受けると述べた。

「ワクチンの販売が承認されて、保健局や世論がワクチンを接種すべきだとなれば、接種します」とレーンさんはいう。「私たちには高齢者や病気の人々に対する倫理的責任がある。自分たちのためというより、社会のために接種を受けるでしょう」

 一方、スウェーデン・ナルコレプシー協会(Swedish Narcolepsy Association)会長のエリザベト・ビデル(Elisabeth Widell)氏はそのような考えに懸念を示す。

 同氏は、保健当局が2009年にワクチンの集団接種を呼び掛けたのは誤りではなかったとしながらも、その呼び掛けはスウェーデン人の連帯意識にあまりにも強く響いたと述べ、保健当局が再び同じことをしないよう願っていると語った。

「ワクチン接種を受けないことを選択した人々が、非難されたり軽蔑されたりするようなことがあってはいけません。なぜなら接種は義務ではなく、自由に選べることだからです」。ビデル氏はスウェーデン人一人一人が、自分のリスクと利益を分析すべきだと主張する。

 ナルコレプシーに悩むシェビさんの決心は変わらない。「どんなリスクがあるかが分かる5年後ぐらいまで、(新型コロナの)ワクチン接種を受けるつもりはありません」 (c)AFP/Pia OHLIN and Tom LITTLE