【11月28日 AFP】シリアの「クラック・デ・シュバリエ(Krak des Chevaliers)」は、世界で最も有名な十字軍の城の一つだ。12世紀に建てられた城塞(じょうさい)の壁周辺では、ボランティアのラナさんがのこぎり片手に低木の除去作業を進めていた。

 クラック・デ・シュバリエでは先月、山火事から城を守ることを目的に低木や枯れ木の除去作業が行われた。ボランティアの一人として作業に参加したラナさんは、「城はわたしたちの故郷で、私たちの思い出。(この状況は)怖いと思う」と語った。

 城塞は1142年、ローマ・カトリックの命を受け、聖ヨハネ騎士団が手掛けた。1271年にはマムルーク朝のスルタンの手に渡った。

 城塞は現在のシリア・ホムス(Homs)県の高い尾根の上にある。かつては兵士2000人がここに駐屯していた。

 そして、2011年に始まった内戦で、クラック・デ・シュバリエは再び紛争の地に立つ城塞となった。

 遺産管理当局のナイーマ・ムハルタム(Naeema Muhartam)氏(32)は、「城は2012年に閉鎖された。2014年に再開したが、観光客を受け入れる状態にはなかった」と説明した。観光客の受け入れを再開したのは、2018年後半になってからだ。

「2019年の訪問者は2万3000人だったが、コロナ禍の外出制限で今年は5000人にとどまっている」と同氏は話した。

 国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)は2006年、クラック・デ・シュバリエを世界遺産に登録した。シリアにはその他、ダマスカス旧市街(Old Damascus)や古代都市パルミラ(Palmyra)といった世界遺産もある。内戦開始から2年後の2013年、クラック・デ・シュバリエは危機遺産として登録された。

 現在、武力衝突は落ち着いているが、城塞の壁には新たな危険が迫っている──山火事だ。

 同国のバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)大統領は先月、山火事の大きな影響を受けた地中海沿岸地域を視察し、国家的災害事態を宣言した。

■「城塞は観光客を恋しく思っている」

 クラック・デ・シュバリエがある地域の大学に所属するナジ・ダーウィッシュ(Naji Derwish)氏によると、今回の除去作業では、400人以上のボランティアが城塞を訪れたという。

「内戦が長引き、乾燥した草木が城を覆ってしまった。とても怖かった」とダーウィッシュ氏。

 そして、訪れた観光客が城塞の歴史に触れ、城の上から写真を撮る様子をもう一度見たいと述べ、「城塞は観光客を恋しく思っている」とコメントした。 (c)AFP/Maher Al-Mounes