【11月24日 AFP】路上に漂う悪臭から、「ワーテルローの戦い(Battle of Waterloo)」の戦場のにおいまで、欧州の過去数世紀のにおいを再現するプロジェクトが、様々な分野の専門家によって開始されている。

「オデウロパ(ODEUROPA)」と呼ばれるこのプロジェクトは、16世紀から20世紀初頭までの欧州大陸に漂っていたにおいを突き止め、再現する取り組みだ。

 専門家らによると、農業が社会の中心だった時代から、産業化時代の工場、都市化の始まりに至るまで、その時代にはどれも特有のにおいがある。

 においを専門とする歴史家で、プロジェクトチームのメンバーである英アングリア・ラスキン大学(Anglia Ruskin University)のウィリアム・タレット(William Tullett)氏は、再現されたにおいが新たな洞察をもたらし、人々の意識に過ぎ去った時代がよみがえることを期待していると語った。「普通の人が過去について知りたいと思うことの中には、その場にいたらどんな感じだったろうか、ということがある」とタレット氏はAFPに語った。「このプロジェクトによって、人々は過去をより自分のこととして体験できるだろうし、現代の身の回りのにおいについても思いをはせることだろう」

 280万ユーロ(約3億4000万円)が投じられている同プロジェクトでは、人工知能(AI)の助けも借りて、7言語に及ぶ文献と数世紀にわたる芸術作品から、においに関する資料を徹底的に探し出すという。再現されるにおいは、欧州各地の博物館で披露され、また世界初のにおいの歴史事典としてインターネット上でも公開される予定だ。

■身近なにおいから歴史的事件まで

 博物館の中にはすでに過去のにおいを展示に組み入れているところもある。英ロンドンの帝国戦争博物館(Imperial War Museum)では第1次世界大戦(World War I)時の塹壕(ざんごう)のにおいを、またイングランド北部ヨーク(York)にある「ヨービック・バイキング・センター(Jorvik Viking Centre)」ではバイキング居住地のにおいを再現している。

「オデウロパ」プロジェクトでは、英国をはじめオランダ、ドイツ、イタリア、フランス、スロベニアの大学や諸研究機関から専門家や学者らを集め、においがどのように共同体や伝統を形作ってきたかを明らかにしようと努めている。

 タレット氏によると再現する対象には、例えば16世紀に伝染病から身を守ると信じられた香草のローズマリーのような身近なにおいも含まれる。同時に、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルト(Napoleon Bonaparte)の敗北に終わった1815年のワーテルローの戦いなど、大規模な出来事の「においの風景」にも取り組む。

 このプロジェクトによって、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)のような機関が後世のためににおいを保護すべきかどうか、といった問いが投げ掛けられることになるだろう。「このプロジェクトの核心的な問いの一つは、においもまた文化遺産とみなせるかどうかだ」とタレット氏。「みなせるのであれば、それを保存できるのか、後世のために保存すべきかどうかが問われることになる」 (c)AFP/Callum PATON