【11月13日 AFP】ベレー帽を小粋にかぶり、人生を謳歌(おうか)するパリジャンたち──。「花の都」の古き良きイメージをふんだんにちりばめたネットフリックス(Netflix)のドラマシリーズ「エミリー、パリへ行く(Emily in Paris)」が人気を集めている。

 米テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(Sex and the City)」で知られるダーレン・スター(Darren Star)氏が手掛けた10話構成の同シリーズの主人公、米国出身のエミリーは、どうもメトロ(地下鉄)を使っている様子がない。

 住まいはかつて「女中部屋」と呼ばれた屋根裏のアパルトマンだが、あり得ないほど広々としており、しかも階下の隣人がイケメンという、現実味の薄い設定となっている。

『巴里(パリ)のアメリカ人(An American in Paris)』『パリの恋人(Funny Face)』『ムーラン・ルージュ(Moulin Rouge!)』『アメリ(Amelie)』といった映画作品に続き、最近ではインスタグラム(Instagram)上でもその様子が発信されるようになった、ばら色で恋物語にあふれたパリというイメージが改めて強調された作品だ。

 ただフランスをよく知る評論家らは、このシリーズを酷評している。パリ市民といえば、怪しい管理人、無愛想なパン屋やウエーター、とりすましている人か怠け者、または色仕掛けが得意な同僚ばかりという描かれ方にうんざりしているようだ。

「表面だけを繕ったパリ像」にいら立ちを隠せないのは、同市在住15年の米国人ライター、リンゼイ・トラムタ(Lindsey Tramuta)さん。

「2020年にもなって、古い手札をいまだに使い回している」とあきれるトラムタさんは、イスラム過激派による襲撃や「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト、gilets jaunes)」運動、大規模なストライキが起きている経済・社会的な現実から目を背けていると指摘する。

 また、トラムタさんは「絶え間なく何世代にもわたってパリがこのように描かれ続けると、パリという街そのものへの長期的な理解に問題が生じてしまう」と語っている。

 その問題の一つが、パリを訪れた一部の観光客が街の現実を目の当たりにして著しく失望してしまう、いわゆる「パリ症候群」だ。現にツイッター(Twitter)上には、「エミリー、パリへ行く」を見てパリに移住したいと思ったという、外国人視聴者の投稿があふれている。

 旅と食を専門とし、2年近くパリに住んでいる米フリージャーナリストのレイン・ナイゼット(Lane Nieset)さんは同シリーズを「多くの外国人が共感できる、面白おかしいラブコメ」と評し、「米国人にとってフランス人は、いまだに品格と洗練の象徴なのだと思う」と述べた。

 さらにナイゼットさんは、新型コロナウイルスが大流行する今、「旅ができない分、夢を見るようになる。逃避方法の一つだ」と話している。(c)AFP/Rana MOUSSAOUI