【1月2日 AFP】カンボジア北部シエムレアプ(Siem Reap)州のアンコールワット遺跡(Angkor Wat)で、チュウン・トゥリー(Chhoeurm Try)さん(50)は高い尖塔(せんとう)に立てかけたはしごを慎重に上がり、木の枝が建造物を傷めることのないように、それらを切り落とした。

 砂岩の割れ目から伸びる若木が茂り、この国で最も貴重な遺産を傷つけることがないように、チュウン・トゥリーさんは庭師による対策チームの一員として活動している。

 20年間、アンコールワット遺跡の中央の尖塔にはだしで登るという危険な行為を続けてきた。尖塔の高さは65メートルもある。

 地上に戻ったチュウン・トゥリーさんはAFPに、「一つ間違えれば、命はない」と語り、「若木が成長すると、根を深くまで張るので、石がバラバラになる原因になる」と説明した。

 アンコール遺跡公園(Angkor Archaeological Park)では、何十もの寺院を保全するために、30人のチームが神経を使う難しい作業を年中無休で続けている。

 アンコールの遺跡群は国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産に登録されており、9世紀から15世紀に建てられたとされる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により世界中で旅行が停滞するまでは、カンボジアで最も人気の観光地だった。

■安全装備はなし

 庭師チームの安全対策は青いヘルメットのみ。メンバーは観光客が注視する中で作業をすることにも慣れている。

 リーダーのヌン・ティー(Ngin Thyさんによると、国内外から訪れた観光客の目には、彼らが寺院に登る姿が危険で恐ろしいものに映るようだ。彼らには技術がないのだと考える人もいる。

 しかし、ロープやクライミングの器具は、もろい石の建造物を傷つけかねないので問題外だ。一方、足場を組むと設置や撤去に何週間もかかる。

 ヌン・ティーさんは、それも庭師らにとって問題の種になると考えており、「ハサミだけを手に、若木に直接向かう方が安全だ」とAFPに語った。

 危険を軽減するために、公園を管理する政府機関のアプサラ機構(Apsara Authority)では現在、樹木の根の成長を阻害する液体を探している。

「まずは実験が必要だ。木の根にかけたときに、石も痛めてしまうことが心配だ」と同機構の副総裁は述べる。「(その薬を)使えれば、皆の負担が減るだろう」

 それまでの間、壮麗なアンコールワット遺跡の保全は身軽な庭師たちにかかっている。

 1年前からこのチームで働く21歳のメンバーは、「危険なので、他の人びとはこの仕事をやりたがらない」と言い、「本当に好きでなければいけない。誰にでもできることじゃない」と語った。(c)AFP/Suy SE