【11月11日 AFP】台湾・金門(Kinmen)島の鍛冶職人、呉増棟(Wu Tseng-dong)さんは、中国から撃ち込まれた砲弾から台所用の包丁を作るベテランだ。

 中国本土からわずか3キロほどしか離れていない同島にある呉さんの工房は、台湾に依然残る戦争の脅威を鮮明に想起させる。

 中国政府は台湾を自国領の一部とみなし、武力による統一も辞さない構えを示している。

 呉さんは、1958年の最悪規模の砲撃の直前に生まれた。44日間に及んだこの攻撃では、金門島や付近の島々に約50万発もの砲弾が撃ち込まれ、618人が死亡、2600人以上が負傷した。

 3代目の鍛冶職人の呉さんは、子どもの頃に鉄の鋳造を学んだ。砲弾を使った包丁作りを始めたのは、同島駐屯の兵士らから特別注文を受け始めた父親だという。

 砲撃は1970年代まで続いたが、この頃の砲弾には爆発物ではなくプロパガンダのビラが収められていた。

 父親の後を継いだ呉さんの包丁の大半は、起爆せず保存状態の良いビラ入り砲弾から作られている。過去30年間に作られた包丁は、約40万本に上るという。

 1990年代半ばには、中国政府が好まない総統候補者への投票を阻止する狙いで、台湾海峡(Taiwan Strait)に向けて弾道ミサイルが発射されたこともあった。しかし呉さんは、中台間の緊張は現在の方がさらに強く、過去最悪と感じているという。

 金門の多くの住民が、衝突がいかなるものかを身をもって知っており、歴史が繰り返されることを望んでいないと話す呉さん。「双方が互いに平和的に向き合うことを願う… 両政府の英知にかかっている」

 映像は10月21日撮影。(c)AFP/Amber WANG