アストン・マーティンが2015年に発表した、セカンド・センチュリー・プランの4番目のモデルにして史上初となるSUVのDBXが、いよいよ日本にやって来た。

上田 2020年で創業107年になるアストン・マーティン史上初のSUV、DBXです。もともと前CEO主導で産まれたモデルで、ポルシェのカイエンにはじまり、プレミアム・ブランドが続々参入した高級SUVの中では最後発ですね。

村上 それってセカンド・センチュリー・プランをブチ上げてDB11から一気にアストンを改革したアンディ・パーマー氏のことだよね。

上田 そうです。DBXはその中でも一番の肝煎りでした。ロータスから開発ドライバを引き抜き、新しい工場も造った。なお、現CEOはAMGから移籍したトビアス・ムアース氏ですね。DB11以降は、インフォテインメント・システムやV8エンジンをはじめとするパワートレインをAMGから供給されるようになった。で、気がついたら、CEOもAMGから来ていた(笑)。

荒井 ライバルはカイエンの上位モデルやベントレー・ベンテイガ?

村上 2015年登場のベンテイガは5年で2万台も売れて、もはやベントレーの大黒柱。このマーケットはものすごく大きくなっている。

上田 どのブランドもSUV様々です。マセラティのレヴァンテや、ロールス・ロイスのカリナンもそう。

村上 そして、なんといってもランボルギーニのウルスだよ。スーパースポーツカー・メーカーのランボルギーニがウルスを出すなら、アストン・マーティンがDBXを出すのも当然の流れ、みたいになっている。

上田 最後発ではありますが、実は2009年にラゴンダ・ブランドでSUVコンセプトの提案はしていたんですけどね。

村上 でも、DBXはアンディ・パーマー氏の功績だよね。彼が旗を振ったからこそ世に出たと思う。

正統派のアストン・マーティン

荒井 これ、売れているのかな?

上田 車両を引き取ったディーラーでは、試乗申し込みが殺到中とか。

村上 むちゃくちゃ注目度は高いと思う。だってDBXって、どこから見てもアストン・マーティンだもの。カイエンは三世代かけてだんだんポルシェっぽくなった。ランボルギーニもかなり研究して、ウルスをそれらしい形にしている。でも、背の低いクルマ中心のブランドにとって、SUV造りは難しい。DBXのデザインを手がけたのはチーフ・デザイナーのアレック・ライヒマン氏だけど、誰が見てもまごうかたなきアストンなのはお見事。でもね、正直、乗ってどうなの? とは思っていた。

上田 アストン・マーティンの完全な新作な上に、他ブランドのようにシャシーを流用していませんし。

村上 だからビックリした。こんなに完成度が高いとは!

DBXはDB11 V8やヴァンテージと同じくメルセデスAMG製で気筒休止機構付きの4LV8ツインターボ・ユニットを搭載する。9段ATとアクティブ・センター・デフを介して4輪を駆動。さらに左右後輪については電子制御式LSDを備える。前後重量配分は53:47。

上田 DB11以降良くなったけど、それ以前は最初は未完成だった。

村上 V8ヴァンテージや先代のDBSあたりは……。

荒井 ……高級なバックヤード・ビルダー、みたいだった。

村上 アンディ・パーマー氏がアストン・マーティンを普通の自動車メーカーに引き上げたんだと思う。製品としての品質の高さもこれまでのアストン・マーティンを思えば驚きなんだけど、さらに驚いたのは乗ってもむちゃくちゃいいってこと。近年、これほどいいと感じたクルマはない。SUVなんだけど、これはスポーツカーだよ。軽いステアリングをちょっと操作したときの動きだとか、反応のいいアクセレレーターだとか、操作感覚はアストン・マーティンそのもの。SUVみたいな新しいクルマを造るとなると、たいていは気合いが入りすぎるのか、欲張りすぎてしまう。たくさん人が乗れて、スポーティだけど悪路も走れて、荷物をいっぱい載せて時には牽引もして……って。その結果、焦点がハッキリしないクルマになりがちだよね。でもDBXはもう「アストン・マーティンはSUVのスポーツカーを造る」って、完全に割り切ったんじゃないかな。

室内の意匠はDB11以降の現行アストン・マーティンとほぼ共通。始動&シフト・スイッチは中央ディスプレイの上とやや遠目になる。後席は頭上および膝まわりの空間に余裕があり、突き上げも見事に抑えられており非常に快適。4:2:4の分割可倒式で、荷室容量は632L。

荒井 アストン・マーティンでしかない、このクルマでしか得られないものがちゃんと出せている。自分たちの価値がどこにあるのか、ハッキリつかんでいる。

村上 しかも乗り心地がいい。かつてのアストン・マーティンはあたりがとにかく硬い印象があった。DB11のV8あたりでずいぶんよくなったけど、DBXはもう別物。なんだか遠いところでトントン、トントーンって音がするだけで、路面の凹凸を見事にいなしてしまう。

上田 車高はノーマル状態からプラス45mmないしはマイナス50mmまで調整できるんですが、普通の状態だとかなりホイールアーチに隙間があって、ストロークが確保されている。試乗車は22インチの35%扁平タイヤなんてタイヤでしたが、とてもそんなサイズとは思えないくらいあたりが柔らかでした。

荒井 悪路も想定したオールシーズン・タイヤを履いていてあの乗り心地だからね。

村上 DB11以降熟成してきたのに加えて、これだけ脚の動きに余裕ができて楽になったのは大きいね。でも全然ふわふわしているわけじゃなく、あくまでスポーティなんだよ。これはちょっと新しい感覚だと思った。あと、もう1つアストン・マーティンらしいと思ったのは排気音に余計な演出が入っていないところ。

上田 通常のGTモードだと、V8エンジンはちょっと遠くで、でもちゃんと吠えている。

村上 そう、すごく自然な感じ。

上田 DBシリーズの後継というか、いわば正統派のアストン・マーティン。GTだけどスポーツカー。

荒井 いくらでも走っていけそう。

村上 ちょっとなんか、アストン・マーティンがいきなり優等生になっちゃった感じもする。でも優等生だけど、つまらないわけじゃない。退屈さとはまったく無縁のクルマ。2・3トンもあるとは思えないくらい身のこなしは軽快だしね。

荒井 乗ると小さく感じるよ。本当はカイエンより大きいけど。

上田 マカンくらいの感覚ですよ。

村上 最新のマカンは大きく感じるから、それ以上に小さく感じるかもね。軽快で人馬一体感があるから余計にそう思う。

上田 峠道の最初のコーナーで、鼻先が予想以上にズバっと入ってびっくりしましたよ。こんな大きなSUVなのに、ここまで軽快だとは。

村上 ボクは峠道は走っていないけど、高速道路でもそういう感じはしたね。最近のSUVの中では出色の出来かもしれない。

上田 オンデマンド4WD、後輪の左右ベクタリングの制御といった最新技術も使いこなしている。

村上 9段ATもいい。リアル・スポーツカーはツインクラッチでもいいけど、実用面ではATに勝るものはないね。いやはや、AMGからそうとう色々受け継いだけど、それでいてアストン・マーティンらしさをしっかり残しているのはすごいよ。人も技術も、いろんな要素がちょうど揃ったというか、時計の針がぐるぐるっと回ってピタっとちょうどいいところに止まった感じ。

上田 ドリーム・チームによって産まれた傑作。DBXはポルシェにとってのカイエンになるんじゃないかな。つまり、ここがアストン・マーティンのターニング・ポイント。

村上 自動運転や電動化が声高に叫ばれているこの時代に、こんな走る楽しさを感じさせるクルマが出てくるとはね。いやはやハイエンドSUV界はDBXの登場で、ますます活性化してすごいことになっちゃいそうだね。まさに戦国時代だよ。

■アストン・マーティンDBX
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 5039×1998×1680mm
ホイールベース 3060mm
車両重量(前軸重量:後軸重量) 2310(1230:1080)kg
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCツインターボ
排気量 3982cc
最高出力 550ps/6500rpm
最大トルク 700Nm/2200-5000rpm
変速機 9段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+エア
(後) マルチリンク+エア
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前) 285/40R22 110Y M+S
(後) 325/30R22 114Y M+S
車両本体価格 2295万円(税込)

話す人=村上 政+荒井寿彦+上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦

(ENGINE2020年12月号)