【11月8日 AFP】問題児としての顔と、素晴らしいテニス選手としての顔という二面性を持つニック・キリオス(Nick Kyrgios、オーストラリア)が、近年は「暗く孤独な場所」にいたと話し、過酷なツアーに参戦し続ける中でうつ状態に苦しんでいたことを明かした。

 男子テニスでも有数の注目選手である一方、気分屋としても知られるキリオスは、コート上での問題行動を含めた数々の素行不良が激しい批判を浴びてきた。昨シーズンのウェスタン&サザンオープン(Western & Southern Open 2019)では激高してラケットを破壊し、さらに暴言を吐いて経過観察付きの処分を科されており、メンタルケアの専門家に助けを求めるようになっている。

 キリオスは、豪シドニーを中心に発行されている日曜紙サンデー・テレグラフ(Sunday Telegraph)で「テニスがどれだけ孤独かをみんな分かっちゃいない」「コートでは一人きりで、誰かとちゃんと会話することもできない。全て自分でなんとかしないといけない。その部分で自分は苦しんだ」と話した。

 感情が豊かなタイプのキリオスは、ツアー中、キャンベラの自宅や家族から遠く離れて過ごす生活につらさを感じていたと言い、時には「深刻なうつ状態」になることもあったと認めた。

「今も覚えている。ある年の上海で、午後4時までカーテンも閉めきって、ベッドに入ったままだったことがある。日の光を見たくなかったんだ」

「誰も人間としての自分に興味がないように思えた。テニス選手としての自分を手に入れて、利用したいだけに思えた。誰も信じられない気がした。暗く孤独な場所で、そこからいろんなものが生じた」「大勢の人が自分にプレッシャーをかけ、俺も自分で大きなプレッシャーをかけていた。テニスが楽しくなくなり、自分をコントロールできなくなっていった」

「こうしなくちゃならないと思う物事のせいで、うつに陥っていった」

 しかしその後、母国に甚大な被害をもたらした昨年夏からの森林火災に対して、救済の取り組みを率先して行ったことで、キリオスは周囲の尊敬を集めるようになり、危機を通じて新たな視点も手に入れたという。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に際しても、ノバク・ジョコビッチ(Novak Djokovic、セルビア)らの軽率な行動をいさめる理性的な発言が称賛されている。

 新型コロナウイルスを理由に、キリオスは全米オープンテニス(US Open Tennis Championships 2020)と全仏オープン(French Open 2020)の出場を見送ったが、そのおかげで家族との絆を取り戻し、安定した生活を送れるようになった。

 キリオスは「世界でも最高の場所を転戦して、厳しい相手と戦い、練習を頑張って成功をつかむことに勝るものはない。もちろんそうした生活が恋しい。だけど俺はテニスしか頭にないわけじゃない」と話している。

「家で家族や恋人と過ごす時間や、(貧しい子どもを助ける)自分の慈善団体の活動、地域の支援を愛している。テニス以外にも、大好きなことがたくさんあるんだ」 (c)AFP