【12月6日 AFP】オーストリアの首都ウィーン北東部の郊外にある、長年放置されていたユダヤ人墓地の清掃活動に取り組んでいる団体のジェニファー・キッカート(Jennifer Kickert)氏は「奇妙に聞こえるかもしれないが、初めてここに来た時、この場所に心を奪われた」と話す。

 晴れ渡った秋の日、赤茶色の枯れ葉がキッカート氏のそばを静かに舞い落ちる。このヴェーリング(Waehring)墓地に来れば、10年前にここを初めて訪れた時に彼女が何に魅了されたかが容易に分かる。

 ウィーンのユダヤ人団体IKGの元会長、アリエル・ムジカント(Ariel Muzicant)氏によると、1784年から19世紀末までの運営期間中には、巧みに作られた墓石の数々と埋葬された人々の名声によって、ヴェーリング墓地は「文化的および歴史的な宝」となっていたという。

 だが、ウィーンの帝国全盛期をしのばせるこの場所は最近まで、びっしりと幾重にも生い茂る植物に覆い尽くされ、墓が荒れるに任されていた。

 ヴェーリング墓地は数十年にわたり、放置され、破壊行為を受けてきた。この中にはナチス(Nazi)支配下の冒とく行為も含まれる。

 しかし、過去数年間にこの場所で行われてきた入念な修復作業に対して、最近、新たな公的支援が開始されている。

 キッカート氏はオーストリアの環境政党・緑の党(Greens)の地方議員で、団体「ヴェーリングのユダヤ人墓地を救え(Save the Jewish Cemetery in Waehring)」の2017年の設立に助力した。現在は広報を担っている。

 団体はそれまで行われていた修復作業を強化し、風雨にさらされた墓地区画の間にわが物顔で生い茂っていた下草を一掃、墓石の表面にこびりついた汚れを慎重に除去した。

 その結果として、ヴェーリング墓地は毎月1回、日曜に見学ツアーのために開放されるようになった。裏手では、ボランティアが一輪車に木の枝を山積みにし、作業をしている。(c)AFP/Jastinder KHERA