【11月5日 People’s Daily】中国青海省(Qinghai)の長江源流に位置し、平均海抜が4888メートルの可可西里(ココシリ、Hoh Xil)山地は、中国最大の無人地帯の一つ。人影のない大自然は、野生動物の楽園となっている。

「あっ、チベットカモシカだ」「あそこには野生のロバが」。道路近くに高原の精霊たちが姿を現すと、ドライバーたちは車を止めては熱心に写真を撮る。道ばたのチベットカモシカは人を怖がりもせずに草を食(は)んでいる。

「私が2006年に着任したころ、観光客はいつも『どうしてカモシカが見つからないの』と質問して聞きました。今は、みんなは私に写真を見せながら『これはカモシカ?』『これは何の動物?』と尋ねてきます」

 ココシリ・ソナンダジェ保護ステーションの竜周才加副所長はそう言う。彼はまだ31歳になったばかりだが、山地を巡回し、野生動物を守る仕事に就いてもう14年になる。

 ソナンダジェ保護ステーションは、1990年代に密猟者との戦いで犠牲となった野生動物保護活動家ジェサン・ソナンダジェさんの名前から付けられた。

 歴代のパトロール隊員の努力により2006年以降、ココシリ山地では密猟者の銃声は聞こえなくなった。ココシリ山地のチベットカモシカは一時2万頭以下だったが、現在は7万頭まで回復した。それでも、無人の山地に入り、密猟者を取り締まるパトロール隊員の仕事は依然として危険だ。

 保護ステーションの展示室には、隊員たちのパトロール光景の写真が並んでいるが、その大半は車を押したり引いたり、修理したりする場面だ。竜周才加さんは「ココシリ山地には道がなく、しょっちゅう車が深みにはまる。車輪に砂袋を敷いたり、テントや衣服まで使ったりして泥沼から抜け出すこともある」と話す。

 テントが使えなくなると、夜は乾いた地面を探して雑魚寝をする。しかし山中は酸素が薄く、夜の温度はマイナス40度になることも。野生動物に襲われる危険もあり、そんなときは四輪駆動車の中で体を縮めて眠るしかない。そんな過酷な環境のパトロールは1か月以上に及ぶ。想像を絶する苦難が続くが、「いいことも、たくさんありますよ」と竜周才加さんは話す。

 保護ステーションは野生動物救護センターも兼ねており、群れからはぐれたりけがをしたりした野生動物の保護も隊員の業務の一つだ。「保護した動物は1歳ぐらいになると野生に戻します。それまではミルクを温めて赤ん坊にあげて、ふんを見て健康状態を確認して、昼は散歩させて…」。竜周才加さんはパトロール隊員であると同時に、飼育員でもある。

 ソナンダジェ保護ステーションがこれまでに救助したチベットカモシカは100頭に及ぶ。他にも、傷ついたヤク、さまようチベットロバ、マヌルネコを助けている。名もなきパトロール隊員たちが大自然を支えている。(c)People's Daily/AFPBB News