【10月29日 AFP】米国史上最悪の高校銃乱射事件で犠牲になった息子を、大統領選向け動画のために人工知能(AI)でよみがえらせないかと広告代理店に持ち掛けられた時、マヌエル・オリバー(Manuel Oliver)さんとパトリシア(Patricia Oliver)さんは一瞬も迷うことはなかった。

 2人の息子、ホアキン・オリバー(Joaquin Oliver)さんは2018年2月14日、17歳で命を落とした。ホアキンさんは、フロリダ州パークランド(Parkland)のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校(Marjory Stoneman Douglas High School)で発生し、17人が死亡した、銃乱射事件の被害者の一人だ。

 初めにオリバーさん夫婦は、死んだ息子の最も新しい写真を提供した。ホアキンさんに似ている俳優がメッセージを録音。AIを使って、ホアキンさんの顔を俳優の顔にマッピングした。

 こうして制作された動画は今月初め、ウェブサイト「アンフィニッシュド・ボート(Unfinished Votes)」とユーチューブ(YouTube)に投稿され、15万回以上再生されている。

 動画では、パーカを着て、ニット帽をかぶったAIのホアキンさんが、バスケットボールのコート前に立ち、語り掛ける。

「僕がいなくなってから2年たつけど、何も変わってない」「11月の大統領選は、僕が投票できる初めての選挙のはずだった。でも、自分が生きたい世界を選ぶことは二度とできない」

 ホアキンさんは、人々の生活よりも銃のロビー活動から得られるお金を気にする政治家を非難し、最後に心に残るメッセージを伝える。「僕のために投票してほしい。なぜなら自分はできないから」

 AIを使って画像を合成する「ディープフェイク」と呼ばれる技術は、政治家にある言葉を言わせたり、著名人の顔をポルノビデオに合成したりと、悪用例がよく知られている。

 しかし、ホアキンさんの動画はこれとは異なる。たとえ正当な理由があったとしても、既に亡くなっている子どもにメッセージを語らせるのは倫理的といえるのだろうか。

 マヌエルさんは、「この技術のいい面を表した完璧な例だ」と話す。再現されたホアキンさんは全く同じではないが、「とても似ている」という。

 ホアキンさんの両親によると、話す内容はホアキンさんが生前、政治や銃について議論していたことや書きとどめていたことに着想を得ている。

 マイアミ大学(University of Miami)の法学者で、市民権と技術を専門とするメアリー・アン・フランクス(Mary Ann Franks)氏は、人々を「だまそうとする意図があって操作しているわけではない」ことが重要だと指摘している。

 映像は28日提供。(c)AFP/Ivan Couronne