【10月31日 東方新報】口座の開設・解約、モバイル決済、オンライン取引、行政手続き、交通安全検査、出勤・退社…。中国では生活のあらゆる場面で「顔認証システム」が広がっている。確実に身元を確認する手段である一方、情報収集の乱用やプライバシー保護への不安も少なくない。

 中国メディア「南方都市報(Southern Metropolis Daily)」が今月発表した顔認証システムに関するアンケート結果によると、回答者の6割は「顔認証技術が乱用されていると感じる」と回答。3割は「顔の情報が漏えいし、何らかの被害を受けた」と答えている。ある分野の業者から突然セールスが来たり、なりすまし犯罪に遭いそうになったりというケースを訴えている。

 中国では最近、顔認証システムをめぐる行きすぎのような事例が報じられている。

 名門・北京大学(Peking University)をはじめ、多くの大学が学生の出席状況を把握するため大学の出入り口に顔認証システムを設置するようになったが、南京市(Nanjing)の中国薬科大学(China Pharmaceutical University)では昨年9月、各教室にも顔認証システムを採用したカメラを試験導入した。授業中の姿勢、居眠り、スマホいじりなどをすべて記録。学生の成績に反映するとし、これには「プライバシーの侵害だ」と批判が起きた。

 昨年10月には浙江理工大学(Zhejiang Sci-tech University)法学部の郭兵(Guo Bing)副教授が、杭州市(Hangzhou)の動物園に対し「観光客に強制的に顔認証を行い、消費者の人身や財産に危害を与えている」として提訴。11月に裁判所が受理し、中国初の顔認証をめぐる訴訟として注目を集めた。動物園側は通年パスのユーザーに「現在の指紋認証に代わり顔認証を導入する。顔が未登録の場合は入場できない」と通知したが、消費者の個人情報を収集する場合は当事者の同意を得る必要があると規定した消費者権益保護法に違反していると指摘している。

 自分の写真をアップし、映画やドラマのスターの顔と入れ替えられるアプリ「ZAO」も大きな問題となった。専門知識がなくとも簡単にできるため爆発的に広がり、米俳優レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)の顔を自分と入れ替えた動画など多くの映像がSNSにアップされた。しかし、ZAOの利用規約には「登録した顔データの使用権利を永久に無償でZAOに譲渡する」と記載されており、多くの人は規約文の長さに細かく読まずに同意していた。この規約は個人情報の過度な収集にあたると指摘され、政府がZAOに業務改善と個人情報保護の強化を命じた。 

 北京市の地下鉄は将来的に顔認証検査ゲートを設置すると発表。実現すれば「顔パス」で駅が利用できる便利さがあるが、「問題のある利用者」を分類するとしている。

 識者の間では「中国は欧米に比べて顔認証システムの情報漏えい防止の体制が遅れている。顔情報が漏えいして、なりすまし犯罪に使われる恐れがある」と指摘している。カード情報を盗まれた場合、カードの使用を停止して再発行すればいいが、顔は交換することはできない。最近も新型コロナウイルス感染症を巡り、「感染者リスト」とする個人の顔がネットで流される事態があった。技術が進化に人の意識が追いつかない。逆に技術の進化が悪用される。そうした技術革新につきまとう問題に直面している。(c)東方新報/AFPBB News