【11月1日 AFP】古代チュニジアで紫色は権力と威信の象徴とされ、王衣や皇帝のローブに用いられていた。だが、その作り方は謎に包まれてきた。

「最初は何から始めればいいのか分からなかった」というのは、コンサルティング会社を営むモハメド・ガッセン・ヌイラ(Mohamed Ghassen Nouira)さん。巻き貝の内臓から染料を抽出する、歴史書にも残されていない方法を再現した。「貝の殻全体をつぶして、この小さな海の生き物からどうやってこんな貴重な色を出せたのか、理解しようとしました」

 きっかけは2007年8月、砂浜で赤紫の色素を出している貝を見つけたことだった。ヌイラさんは学校の歴史の授業で習ったことを思い出した。そして地元の漁師から貝を買い込み、今も作業場として使っている古い屋外キッチンで試行錯誤を始めた。

 チュニジア国立文化財研究所のアリ・ドリン(Ali Drine)氏によると、古代のフェニキア人、そしてカルタゴやローマ帝国にとって、染料の生産は大きな富の源だった。染料製造業は「国庫に多額の収入をもたらしたため、皇帝の直轄下に置かれた」という。

 ドリン氏いわく、貝紫色の染料の製造法を詳細に記した歴史文書はない。ヌイラさんは「染色や考古学、歴史や化学の専門家が手を貸し、励ましてくれました。ですが、誰もそのノウハウを知りませんでした」と語る。

 貝紫色の染料は、今日でも高く評価されている。だが、作っているのはドイツのある画家や日本の愛好家など、世界でもほんの一握りの人々だ。

■レシピのようなものではない

 この染料を作っている他の人々に助言を求めると、ある人からは「料理のレシピのようにみんなで共有するようなものではない」と断られた。「それでいっそう決心しました。より勉強し、努力を重ねようと自分を駆り立てました」とヌイラさん。

 ヌイラさんはインディゴブルーから濃い紫色まで、いくつもの染料サンプルを木箱の中に大切に保管している。その中でも2009年のものは特別で「初めて成功した時の思い出」だという。「適切な技術を発見できるまで試行錯誤を繰り返し、2013年から2014年にかけてようやく習得しました」

 まず巻き貝を洗い、種類と大きさで分ける。殻の上部を慎重に壊して、色素を分泌する腺を取り出す。この分泌液が酸化すると紫色になる。巻き貝100キロから抽出できる染料は、わずか1グラム。これだけを抽出するのに、2週間分の週末を費やす。

 でもヌイラさんは「とても満足しています。それにカルタゴの祖先に関するものを復活させたことを誇りに思います」と語った。 (c)AFP/Kaouther Larbi