【10月27日 AFP】米国では都市部でも地方部でも、銃の購入熱が沸騰している。人々を駆り立てている要因は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)と、人種差別に抗議するデモの激化、そして政治情勢だ。

 南部ミシシッピ州の最大都市ジャクソン(Jackson)郊外にある射撃練習場「ブーンドックス・ファイヤーアームス・アカデミー(Boondocks Firearms Academy)」では、60代の白人女性ブレンダ・デュマ(Brenda Dumas)さんが、購入したばかりの銃で段ボールの標的を狙っていた。「いざという時に、自分で自分の身を守れるようになりたくて」

 36回目の結婚記念日に夫を説得して、銃の安全な使い方を学ぶコースに一緒に参加したのだというデュマさん。「今テレビでは、いつも暴力沙汰が報じられている」から「以前よりも不安を感じている」と訴える。

 米国は、アフリカ系米国人のジョージ・フロイド(George Floyd)さんが白人警官に拘束され死亡した5月以降、反人種差別デモに揺れている。ほとんどのデモは平和的だが、一部で略奪や放火が起きている。ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は、暴力沙汰の責任は「急進左派」にあるとして、11月3日の大統領選で自分が再選することが「法と秩序」を回復する唯一の道だと主張している。

■人生初の銃

 一方、デュマさんと同じコースに参加していたアフリカ系米国人男性は、全く異なる見解を示した。匿名で取材に応じたこの男性は、「抗議デモは権利だ。デモの参加者は、混乱の原因ではない」と指摘。「今の大統領は(問題を)好転させるどころか、悪化させている」と批判した。今回初めて拳銃を購入したが、それは「自衛のため」だという。

 ジャクソンから北に約2000キロ離れたニューヨーク州ロングアイランド(Long Island)でも、銃販売店「コリシウム・ガン・トレーダーズ(Coliseum Gun Traders)」に購入希望客の行列ができていた。

 予備の銃弾を購入した40代の白人男性アル・マテラゾ(Al Materazo)さんは、これまで銃を所持することなど考えたこともなかったが、「パンデミック初期の、たしか2月末」に人生初の銃を購入したと語った。感染拡大のニュースを聞き、多くの人が失業することになるだろうと予想。「強盗という手段に出る連中が現れるかもしれないから、家族を守れるようになりたかった」という。

 コリシウム・ガン・トレーダーズの経営者アンドルー・チャーノフ(Andrew Chernoff)氏は、2月から店は大繁盛だと話した。客層は「18歳から80歳まで、あらゆる職業・階層」に及んでいる。

■85歳の双子姉妹も…

 銃価格も、需要に伴って高騰している。ブーンドックス・ファイヤーアームス・アカデミーで銃を購入した受講者の一人は、通常なら499ドル(約5万2000円)で買える半自動小銃を今しがた800ドル(約8万4000円)で購入したと教えてくれた。

 ミシシッピ州より銃規制の厳しいニューヨークでは、銃所持許可証の取得希望者の順番待ちが長期化している。クイーンズ(Queens)地区にある銃器販売店兼射撃練習場「セネカ・スポーティング・レンジ(Seneca Sporting Range)」の経営者ジョン・デロカ(John DeLoca)氏によれば、ニューヨーク市ではこれまで6か月以内に許可証を取得できていたが、今は14か月待ちの状態だ。

「白人、黒人、ヒスパニック系、若者から高齢者まで。85歳の双子の姉妹が銃所持許可証を求めて来たこともある」とデロカ氏は明かした。

 銃需要の高まりは、認可を受けた銃器販売店から銃を購入する際に求められる連邦当局への犯罪歴の照会件数が急増していることからも分かる。2019年には月平均230万件だった照会件数は、今年6月には同390万件と過去最高を記録した。

 映像は9月24日撮影。(c)AFP/Charlotte Plantive with Thomas Urbain in New York