【10月27日 AFP】アルメニアとアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフ(Nagorno-Karabakh)自治州の主要都市ステパナケルト(Stepanakert)の防空壕(ごう)に身を隠して暮らす住民たち。ここでは砲撃を受ける心配はないかもしれないが、新型コロナウイルスの脅威からは逃れられない。狭苦しくて換気が悪く、マスクもないのだ。

 6万人の住民の大多数は街を離れたが、残った住民らがアゼルバイジャン軍による相次ぐ砲撃を逃れて生活している。

 市内にある目立たない3階建てビルの地下も防空壕として使われている。一番広い部屋は寝室として使用されている。広さは約50平方メートルで、天井の高さは2メートルもない。壁沿いに備え付けられた石のベンチの上に10枚ほどのマットレスと毛布が置かれ、土間にはカーペット代わりに段ボールが広げられている。

 ルシネ・トブマシャン(Lusine Tovmasyan)さん(44)は、ステパナケルトで医療検査センターを運営していた。戦闘が始まった1か月ほど前から保健当局で働き始め、市内の中央病院で新型コロナウイルス検査に携わり、来院できない住民には家庭訪問をして検体を採取している。

 23日には、地下壕があるこの建物を訪れた。新型ウイルスに感染している疑いがある63歳と76歳の女性を検査するためだ。

 一室には女性が5〜6人いたが、マスクをしているのはトブマシャンさんだけだった。

 1日平均60回の検査を実施しているというトブマシャンさんは、「感染率は極めて高い」と話す。住民らは地下室でマスクをせずに集団生活をしているからだ。「住民の40%から60%が陽性と判定されています。日によって違いますが」

 地下壕では、茶色の髪をした15歳の少女が大きな毛布の下から顔を出し、再び、毛布の下に潜り込んだ。そのベッドの端で少女の母親が、うつろな目をしていた。

 夫と息子は前線で闘っている。居場所は正確には知らないが、定期的に連絡を取っているという。「私たちが望んでいるのは平和。戦争ができるだけ早く終わってほしいです」と女性は涙ながらに言った。(c)AFP/Emmanuel PEUCHOT