【10月25日 AFP】黒い扉の向こうで響き渡る悲鳴。中国・上海の地下の一室で、襲ってくる何者かから、若い女性が身を隠す──実際には、ヅァン・ティアン(Zeng Tian)さん(26)の身は危険にさらされていない。これは巧妙に作り込まれたロールプレーイングゲーム(RPG)の一幕だ。

 ヅァンさんと7人の友人は地下室に閉じこもり、殺人ミステリーを題材にした実体験型RPG(ライブアクション・ロールプレイング、LRPG)「ホーンテッドマンション(The Haunted Mansion)」に参加しながら、昼下がりを過ごす。

「新しいゲームに参加してシナリオを読むたびに、新しい人生を生きることになるんです」とヅァンさん。現在は失業中だが、LRPG業界で働けたらと考えている。

 LRPGの参加費は国によってさまざまだが、上海では一人につき約300〜800元(約4700円〜1万2000円)となっている。

 殺人ミステリーLRPG市場は、新型コロナウイルス感染症(COVID19)のパンデミック(世界的な大流行)以前に、すでに中国都市部の若者らの心を捕らえていたようだ。中国最大級の生活情報プラットフォーム「美団点評(Meituan Dianping)」は、2019年の業界規模を100億元(約1570億円)超と推定している。前年比2倍の勢いだ。

 今年に入ってからの統計はないが、専門家によると、新型ウイルス流行による規制が緩和されるとともに、LRPGイベントへの若者らの参加は戻ってきているという。

 中国国営・中央人民ラジオ(China National Radio)は8月、殺人や暴力的な展開、性的な内容に依存するシナリオが多すぎると懸念するリポートを伝えたが、一方でLRPGは若者らをスマートフォンから引き離し、実世界での交流に呼び戻しているとの意見もある。

 eコマース(電子商取引)業界で働くザオ・チンソン(Zhao Qingsong)さん(25)は「最近はみんな、スマートフォンで話しがちだけど、一緒に座って面と向かって話していた昔のコミュニケーションと比べて、何かが足りないと感じます。(中略)でも、このイベントでは、孤独を感じません」とAFPに語った。

 映像は8月撮影。(c)AFP