時計のデザインで人気の的が内部のメカニズムが見通せる〝オープン〞スタイル。ダイアルやケースバックを通して見える精巧なムーブメントとスケルトンで露わになった機構に心躍る!
機械式時計のさまざまな複雑機構は、コンプリケーションと総称される。とりわけトゥールビヨン、ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー、スプリットセコンドクロノグラフなどは最も複雑な部類に属すが、トゥールビヨンは回転運動が視覚的に楽しめることから「見せる」ためのデザインが圧倒的に多い。
ハンマーがゴングをたたく動作と音が同時に楽しめるミニッツリピーターの場合も、機構を見せるモデルが徐々に増え、かつては設計者や時計師しか知らなかった一種のミステリアスなメカの世界をオープンスタイルで惜しげもなく晒す時代になった。それだけではない。最近は見せることを前提にして開発されたコンプリケーションも続々と現れ、愛好家の楽しみは尽きない。
トゥールビヨンやリピーターのような複雑機構をダイアル側に露出させるのは実は好ましくないと、かつて聞いたことがある。日光でパーツが劣化するのが心配だから。今年のパテック フィリップは初めて「見せる」に転じたが、心配無用! 今はサファイアクリスタルに紫外線防止加工がちゃんと施されているからだ。見えるほうがやっぱりうれしい。
スケルトンをもっとも楽しめるのが複雑機構を持つ時計だ。名門ブランドの中でもとりわけ熟練の職人が手がけるコンプリケーションは、見ているだけで時間が経つのを忘れるほど。パテック フィリップの待望の新作においては、ミニッツリピーターの美しい音色だ けでなく、ゴングを鳴らす様子まで楽しめるのだからたまらない。まさに芸術品と言える仕上がりだ。
スイスのユニークな独立系ブランド、H.モーザーとMB &Fが初めてコラボレーションモデルを発表した。共同で創作したのは、H.モーザーのコンセプトウォッチでおなじみの美しいグラデーションのフュメダイアルの上で、MB & Fのオロロジカル・マシンならではの立体ムーブメントが時を刻む2つのモデル。両者の既成概念を覆す発想と持ち味が存分に発揮された、アバンギャルドなアートピースは、オープンスタイルの新境地を開拓する。
文=菅原 茂(時計ジャーナリスト)/前田清輝(ENGINE編集部シニア・エディター)
(ENGINE2020年11月号)
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