■「都市アパルトヘイトのグラウンド・ゼロ」

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領はボルティモアの困難な状況を、政治的に利用している。民主党が長年、市政を率いてきたボルティモア市を繰り返し攻撃し、最近では「全国で最悪」と形容した。

 2015年にボルティモアで、当時25歳だった黒人男性のフレディ・グレイ(Freddie Gray)さんが警察による拘束中に負傷し、その後死亡した事件を受け、人種的不平等に対する不満は沸騰した。そして今年、全米に広がった反人種差別運動「黒人の命は大切(Black Lives Matter)」は、ボルティモア市で強い反響を呼んだ。

 2016年のボルティモア市のデータによると、中心部東西の一部の地域では、住民の90%以上を黒人が占め、年間所得の中央値は1万4000ドル(約150万円)という低さだ。一方、最富裕層地区のいくつかでは、住民の85%以上が白人で、年間所得の中央値は11万ドル(約1100万円)となっている。

 専門家らによると、この分断はボルティモアの醜悪な人種差別の歴史から生まれた。

 研究者で活動家のローレンス・ブラウン(Lawrence Brown)氏は、今年ユーチューブ(YouTube)に投稿されたインタビューで「ボルティモアは現に米国の都市アパルトヘイトのグラウンド・ゼロ(中心地)だ」と語った。

 同氏によると1910年、ボルティモアの指導者らは米国初の居住区における人種隔離法を可決した。この法律によって黒人は、住民の大半を白人が占める地区への転入ができなくなり、その逆も同じく禁止された。

 7年後に米最高裁はこの法律を無効としたが、その後も数十年間にわたって、黒人による不動産の所有や賃貸を禁じる「制限的不動産約款」などの施策が、法的執行力を持って黒人を締め出していた。