【10月25日 東方新報】かつて仏教が盛んだった中国では多くの仏像や石仏が各地に残っているが、民間人が勝手に仏の損壊部分を「修復」してしまうことがたびたび問題になっている。

 今月10日、重慶市(Chongqing)で「私の仏」と題した芸術展が開かれると、数日後にインターネットで大きな話題となった。今年で34歳となる芸術家の褚秉超(Chu Bingchao)氏が甘粛省(Gansu)、陝西省(Shaanxi)、寧夏回族自治区(Ningxia Hui Autonomous Region)にある50体の仏像を独自に修復し、仏像の「ビフォー・アフター」の写真を並べて展示した。修復と言っても文献資料に基づかず、自分の「感性」で仏像の損壊部分を補ったという。ネット上では「これは仏像の破壊行為だ」と批判が起きた。

 取材のため芸術展に駆けつけた中国メディアに対し、褚秉超氏は「これらの仏像は地元の行政も保護しておらず、誰も見向きもせず野ざらしにされていたもの。仏像について説明する掲示板すらなかった」と説明。「顔料を塗ったり工具を使ったりしていない。水や泥だけを使って修復しており、問題があれば元の形に戻すこともできる」と話している。

 これに対し、西北大学(Northwest University)文化遺産学院の于春(Yu Chun)副教授は「誰も管理していないとしても、仏像は歴史的、文化的遺産。個人で勝手に修復はできない。水や泥のみでも、手を加えることに変わりは無い」と指摘。「修復とは『元の形に近づける』というのが国際常識。しかも、復元作業は最小限であるべきだ」と批判する。

 こうした騒動はこれが初めてではない。

 2018年8月、四川省(Sichuan)安岳県(Anyue)で宋代に作られた石窟内の仏像が、元の姿とまったく別の外見に修復されていたことがニュースとなった。本来は何も色づけされていない仏像が、顔は白く、唇は赤く、瞳は黒い染料でくっきり描かれ、衣や背景も赤、黄、青の極彩色で彩られた。安岳県文化財保護局は「修復は1990年代に行われたもの。当時、仏像は文化財に指定されておらず、地元の人たちが修復したとみられる」と説明している。安岳県は古代仏教遺跡が集中しており、石窟は100か所以上、仏像は10万体以上あるという。

 今年6月には、甘粛省西和県(Xihe)の石窟で修復された仏像の顔が「あまりに奇妙」と話題になった。仏像は目が大きく垂れて口がゆがみ、漫画のキャラクターのような顔になっている。北魏の時代に制作されたが、像の頭部が破損していたことから村民が金を出し合い、1998年に職人に修復を依頼したという。地元では「笑っているのが特徴の仏像で、以前と大きくは変化していない」と主張しているという。

 同じ問題が繰り返されることについて、中国メディアは「第一に、文化財として保護されず放置された仏像が多すぎる。どの地域にどれだけ仏像があり、どんな保存状態にあるかという全国統一の調査や記録があまりに乏しい。第二に、仏像を修復する知識や能力がある専門家、職人が圧倒的に不足している。そのため文化財をそのまま保護するという意識が市民の間に浸透せず、『善行を積む』つもりで仏像を身勝手に修復する事態が起きる」と解説。早急に対策を採らなければ、放置された仏像がいずれ朽ち果てるか、勝手に修復されるかして、「歴史研究の空白を生んでしまう」と警鐘を鳴らしている。(c)東方新報/AFPBB News