【11月4日 AFP】アルメニアとアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフ(Nagorno-Karabakh)のマルタケルト(Martakert)にある建物の地下。仮設の事務所で、迷彩服に身を包んだ首長のミーシャ・ギュルジャン(Misha Gyurjyan)氏(61)が机に寄り掛かった。机の上にはぐるぐる巻きのケーブルと固定電話が2台。背後にはカラシニコフ(Kalashnikov)銃が立て掛けてある。

 アゼルバイジャンのナゴルノカラバフ自治州を実効支配するアルメニア系分離派とアゼルバイジャン軍との間で9月27日に戦闘が始まって以来、山岳地帯のナゴルノカラバフ北東部にあるマルタケルトでは砲撃が絶えず、住民5000人の大半が避難を余儀なくされている。

 アルメニア系のギュルジャン氏は、地階の3部屋を事務所と宿舎、台所代わりに使い、ここで一日の大半を過ごしている。外に出るのは砲撃の被害を調べに行くときだけだ。

 AFPの取材班はギュルジャン氏に同行し、人の気配がなくなった町を回った。通りでは、野良犬や豚が餌を探してうろついていた。

 ギュルジャン氏によれば、ナゴルノカラバフをめぐる戦闘で破壊された家屋はマルタケルト全体の30%以上に及ぶ。今は空襲警報のサイレンが鳴ることもない。「もう電気が通っていないので」と、車で町を見回りながらギュルジャン氏が説明した。10キロ離れた前線の砲撃で時折、地響きがする。

 ギュルジャン氏が1軒の家の前で車を止めた。数日前に砲撃で破壊されたという。屋根から剥がれた金属板が庭に散らばり、垣から黒いブドウの房がぶら下がっている。家屋の壁が焼け、ところどころ燃え落ちていた。

 さらに進み、ギュルジャン氏は大きな平屋の前で車を止めた。先月10日に砲撃を受けた自宅だという。

「家にはちょうど息子がいた」「戦線から戻って来て家で休もうとしていたが、空爆でやられる前に避難した」

 妻はアルメニアの首都エレバンに避難したが、息子2人はアルメニア軍に入隊している。

 ギュルジャン氏が腕時計を見た。午後2時30分。「まずい。そろそろ(アゼルバイジャン側が)爆撃を始めるかもしれない」と言いながらギュルジャン氏は車に戻った。