【10月31日 AFP】クリス・スカイフ(Chris Skaife)氏は、英国で最も重要な職業の一つに就いている。ロンドン塔の護衛兵ヨーマン・ウォーダー(Yeoman Warder)の一人で、カラスの飼育係「レイヴンマスター(Ravenmaster)」だ。

 もしすべてのカラスがロンドン塔からいなくなると、この王国は崩壊して大混乱に陥る──英国民の間で広く知られている伝承ではそう言われている。カラスは同国で最も有名な鳥なのだ。

 新型コロナウイルスのロックダウン(都市封鎖)により、国内各地の観光名所は一時的に閉鎖を余儀なくされた。テムズ川(Thames River)の川岸にある1000年の歴史を誇るロンドン塔も例外ではなかった 

 そしてスカイフ氏は、カラスたちを退屈させない方法を考えるという前代未聞の課題を突き付けられた。ロックダウンで、カラスの遊び相手──もしくは食べ物を横取りする相手──が突然、いなくなってしまったためだ。

 また、塔の守護者のカラスがおいしい食べ物を求めてどこかに飛び去り、伝説が現実のものとなったら大変だ。

■勅令

 ロンドン塔では8羽のカラスを飼育している。メリーナ、ポピー、エリン、ジュビリー、ロッキー、ハリス、グリップ、そしてジョージだ。17世紀に出されたという勅令では、常に6羽のカラスがいなければならないとされた。だがスカイフ氏は「万が一」を考え、2羽を「予備」として飼っていると話す。

 カラスは敷地内を自由に動き回ることはできるが、遠くに飛び去ってしまうのを防ぐために、クリッピング(鳥の羽切り)が施されている。

 3月のロックダウン開始時、スカイフ氏は一時解雇された。それでも同氏は王室から預かるカラスの世話を続け、アシスタント3人と交代で餌やりなどをした。

 ロックダウンでロンドン塔を訪れる人がいなくなった。カラスたちにとってもやることが少なくなってしまい、「彼らが退屈しないようにする必要があった」とスカイフ氏は話す。そして、好奇心をくすぐることで楽しんでもらえると考え「カラスたちのためにおもちゃを用意した」と説明した。

 飼育施設の中には風船やはしご、鏡が持ち込まれた他、敷地内の各所に餌を隠し置いてカラスが探し回るようにするなど、さまざまな工夫が講じられた。