■「伝説が本当になってほしくはないですから」

 朝食はスカイフ氏の出番だ。護衛兵の赤と黒の特徴的なユニホームを着て、ひな鳥やネズミなどを与えると、カラスたちがこれをおいしそうに食べる。

 スカイフ氏のお気に入りはメリーナだ。メリーナは、投稿や動画にたびたび登場し、インスタグラム(Instagram)やツイッター(Twitter)では、おなじみの一羽となっている。同氏のアカウントのフォロワー数は12万人を超える。

 餌の時間が終わると、スカイフ氏は南庭に置かれた飼育施設のドアを開放し、外に出たカラスたちが翼を大きく伸ばした。

 ロンドン塔は7月10日に閉鎖を解除したが、訪問者の数はパンデミック(世界的な大流行)により大幅に減った。塔を管理運営するヒストリック・ロイヤル・パレス(Historic Royal Palaces)によると、一週間当たりの訪問者数は昨年10月は約6万人に上っていたが、現在はわずか6000人にとどまっているという。

 現在カラスは、以前よりも長い時間、おりに入れられている。訪問者の数が減り、カラスがあさることのできるごみ箱の入りが悪いため、十分に餌を食べさせる方策が必要だからだ。

「本当は、こんなふうにはしたくないんですが」と、スカイフさんは語った。

 世間の生活は元に戻った。少なくとも外見上はそう見える。カラスたちも人の姿を見る機会が増え、以前のような過ごし方に、また慣れつつある。

 スカイフ氏はカラスの世話を14年間続けてきた。カラスへの愛情があるのはもちろんだ。だが、そこには歴史的、愛国的な義務感もあり、「伝説が本当になってほしくはないですからね」と話した。 (c)AFP/Linda ABI ASSI