【10月12日 AFP】米ニューヨーク市で新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けて、公共交通機関の利用を避け、車を買う人が増えている。中古車市場が活況を呈する一方、渋滞解消の望みは薄れている。

 ジュリアン・ジェネストー(Julien Genestoux)さん(35)は仏リヨン(Lyon)、伊ローマ、米サンフランシスコに住んでいた頃は車を持ったことがなく、ニューヨークに来てからの5年間も車の必要を感じてこなかった。

 ジェネストーさんは、「この街で車を使うのは悪夢だ」「渋滞はあるし、車を止める場所を探すのに何時間もかかる」「私にとって、(車を使うのは)まったく実用的ではなかった。だが残念ながら今になって必要になってきた」とAFPに語った。

 2~3週間前、3児の父であるジェネストーさんはついに思い切って中古車販売サイトでファミリーカーを購入した。事実上すべての文化活動が停止する中、ジェネストーさん一家はニューヨークを出られるようになった。

 新型コロナウイルスのパンデミック前、ジェネストーさんの友人グループの中で車を持っている人はいなかったが、パンデミック後にみんなが車を購入。ジェネストーさんが車を買ったのはグループの中で最後だった。

 米国の中古車価格の動向を示すマンハイム(Manheim)指数は8月に過去最高の163.7を記録。1年前は141.3だった。

 6月初め、ブルックリン(Brooklyn)地区の中古車ディーラー、クリス・スティリアヌー(Chris Stylianou)氏は、30年のキャリアで初めて在庫がほとんどなくなるという体験をした。

 同じくブルックリンの中古車販売店Aクラス・オート・セールス(A Class Auto Sales)の販売員、ルディー・ブロッカー(Rudy Blocker)氏は、経済を回すために7月末まで米政府が失業中の人に送った週600ドル(約6万3000円)の小切手が中古車販売の急激な伸びを後押ししたと考えている。

「皆さんほとんどお金を持っていなかった。(小切手が来たことで)皆さんお金を使いたくて仕方がなくなった」(ブロッカー氏)

 もっとも、新車販売は6月以降持ち直してきたものの、主要メーカーはいずれも2019年より大幅に減らしている。

 ニューヨークから車をなくす活動をしているNPO「トランスポーテーション・オルタナティブズ(Transportation Alternatives)」は9月、ニューヨークでは多くの人が在宅勤務をしているにもかかわらず、交通量は前年比で9%しか減っていないと発表した。

 同NPOは、行動を起こさなければニューヨークは「大渋滞が起き、排ガスで息が詰まり、事故が多発する『カーマゲドン(Carmageddon)』」に見舞われると警鐘を鳴らした。

 環境汚染対策の擁護者を自認するニューヨークのビル・デブラシオ(Bill de Blasio)市長は、新型コロナウイルス流行に伴う交通渋滞の防止については何の計画も示していない。

 交通混雑解消のためマンハッタン(Manhattan)の特定地域に進入する車両に課金する計画は、新型コロナウイルスの流行前に決定されていたが、2021年1月の開始予定が少なくとも同年末まで延期された。

 ジェネストーさんは、「いま人々が車を買うとすれば、ニューヨークの公共交通政策が不十分だということを示していると思う」と語った。(c)AFP/Thomas URBAIN