【10月18日 AFP】広大な人造湖の水面から、2つの屋根が突き出す──約1万2000年の歴史を持つトルコ南東部の古代都市ハサンケイフ(Hasankeyf)は今年、ダム建設によって湖の底に沈んだ。

 世界中から観光客が訪れていたかつてのハサンケイフの魅力を、新しくつくられた街が取り戻せるか、宝石商のアブドゥラマン・グンドードゥ(Abdurrahman Gundogdu)さん(48)は心配している。

 グンドードゥさんの店の中は宝石でいっぱいだが、客は一人もいない。「今の稼ぎは、古い街だったときの1パーセントです」「地元の観光客はいますが、彼らには買う金がありません」と語った。

 当局は古都が沈む人造湖をボートや水上バイク、パラグライダーを楽しめる観光名所にしたいと考えている。商人のビュレント・バサラン(Bulent Basaran)さん(50)は、トルコ西海岸の観光リゾートのように「東のボドルム(Bodrum)やマルマリス(Marmaris)になる」と言われたという。

 ダム建設反対運動をしてきたリドバン・アイハン(Ridvan Ayhan)さんは、客足が戻ると期待するのは「愚かなこと」で、「歴史が残っていないこの場所に、もはや来る意味はありません」と厳しい口調で語った。「ここに来るのは、主に好奇心から、どんなふうに消えてしまったのかを見に来る人だけでしょう。一度来たらそれで終わりです」

 だが商人のバサランさんは、ハサンケイフの長期的な見通しについてそれほど悲観していない。5年以内に事態が好転するだろうと期待する。

 地元の観光客にとって、新しい湖はこれまでと違うことをする機会を提供している。ハサンケイフ南方の町ミドヤト(Midyat)から家族でやって来たアシエ・サヒン(Asiye Sahin)さんは、ボートツアーが始まると喜びの声を上げた。「みんなすごく興奮しています。海を見たことはあるけど、ボートに乗ったことはありません」と語った。

 元ツアーガイドのセチン・イルディリメル(Cetin Yildirimer)さん(29)は、新婦とともにボートで結婚を祝っていた。これから旧ハサンケイフの住民のために建てられた家に引っ越し、新婚生活をスタートさせる。

 古都のハサンケイフが水没した今、この地で観光客が「求めているものが見つかるかどうか」、イルディリメルさんは疑問に思っている。だが、観光客は「(新型コロナウイルスの)パンデミック(世界的な大流行)がなければ絶対に来る」と強調する。「昔の街並みは完全に消えてしまった。だから今、私たちは先を見据えている」 (c)AFP/Raziye Akkoc