【10月25日 AFP】英スコットランド・グラスゴー中心部、建物の陰に隠れた人通りのない道の外れ。ピーター・クライカント(Peter Krykant)さん(43)は白いバンから降り、奥の路地にちらりと視線を投げた。地面には薬物摂取用のスプーン、血のついた注射器、排せつ物などが散乱している。

 クライカントさんは、このような路地のことをよく知っている。11年前に薬物を断つまで、ホームレスだった彼はよく似た場所でコカインやヘロインを打っていた。

 17歳で薬物の使用を始めたクライカントさんは、「(薬物使用者の)犯罪者扱いをやめなければいけない」とAFPの取材に語った。

「ネズミが行きかう暗い路地で薬を使っている彼らを、引っ張り出さなくてはいけない。安全で支援を受けられる環境に引き入れて、必要な助けやサポートを提供する必要がある」

 自ら薬物を使用していた経験から、クライカントさんは「安全な薬物使用室」というアイデアを思い付いたが、これを当局に受け入れられなかったことから、3月にバンを購入。クラウドファンディングで2400ポンド(約32万円)を集め、バンを清潔な移動薬物使用施設に改造した。

 車内には清潔な針と注射器、さらにオピオイドの過剰摂取がもたらす作用を緩和するナロキソンなどが置かれている。

■法律の板挟み

 クライカントさんは9月第1週に初めてこの車を稼働させた。初日の利用者は9人だった。

 今は週に1~2回の稼働を予定しており、最終的にはグラスゴー周辺一帯を薬物使用者が安全で清潔な環境で薬物摂取をできる場所にしたいと考えている。そうすれば数百人の命を救えるというクライカントさんは現在、フルタイムで薬物関連法の推進運動をしている。

 エディンバラのスコットランド行政府は、こうした安全な薬物使用区域の利用を支持している。しかし、薬物関連法は国の管轄だ。英内務省は暮らしや地域社会を荒廃させるとして、薬物使用室の導入や薬物合法化は全く予定していない。

 しかし、クライカントさんは自分の活動が違法行為だとは考えていない。そして、スコットランド法務官がこの問題の合憲性について英政府に掛け合ってくれることを望んでいる。

「薬物が引き起こす害を軽減するとして国際的に認められた、エビデンスに基づく方法を提供していることで、逮捕や起訴ができるのか?」とクライカントさんは問う。