【10月9日 AFP】雑然とした小屋が重なり合うような光景を背に、ダンサーたちは考え抜かれた動きで走り、一続きに床に倒れこむ。

 これは、ブラジル・サンパウロ(Sao Paulo)最大の貧民街パライゾポリス(Paraisopolis)で行われているバレエの練習風景だ。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)で、バレエ教室は4か月にわたり休講。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による同国の死者は14万9000人を超え、米国に次いで世界で2番目に多い(10月9日時点)。

 サンパウロの貧民街は、新型ウイルスで大打撃を受けた。このような地域では、清潔な水道水や公衆衛生インフラ、基本的な医療体制が整っていないことが多い。

 パライゾポリスに暮らすケミリー・ルアンダ(Kemilly Luanda)さん(17)は「(バレエ教室に)戻るのはとても不安でした。(バレエを)習い始めた時のように」と、練習の合間に語った。

■「ズーム」を通じて寝室で練習

 ルアンダさんらは現在、新たな演目「ナイン・デス(Nine Deaths)」に取り組んでいる。昨年12月、パライゾポリスで行われていた街頭パーティーを警察が急襲した際に起きた群集事故の犠牲者にささげる、緊急のメッセージを込めたものだ。

 パンデミックで「ナイン・デス」の初公演は延期に。生徒らは現在、長い中断から戻り、準備を進めている。

 バレエ教室は、2012年設立。公的資金と民間による寄付で200人に無料のレッスンを提供している。同教室にとって、ロックダウン(都市封鎖)を乗り越えるのは容易ではなかった。

 教室の設立者モニカ・タラゴ(Monica Tarrago)氏は、遠隔でのレッスン継続は「簡単ではなかった」と語る。「心身を常に整えておけるよう、(ビデオ会議アプリの)ズーム(Zoom)でできることはすべて考えました」

 バレエ教室の最終学年に在籍するルアンダさんはAFPに対し、自宅からの遠隔レッスンで、遅れずについて行くことの難しさを語った。2部屋の自宅では、両親と4人のきょうだい、犬とともに暮らしている。「家族を寝室から追い出し、携帯電話を二段ベッドの上に立て、ベッドの間の隙間で練習しなければなりませんでした」

「私たちはまっさらになってキャラクターを感じなければなりません。彼らの苦しみを感じようとしています。(中略)身も心もつらいです」。それでも「バレエなしでは生きていけません」と、ルアンダさんは語った。

 映像は8月27日撮影。 (c)AFP/Paula RAMON