■美白を求める同調圧力を拒否

 ベトナムの法的な婚姻可能年齢は18歳だが、国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によると10人に1人の少女が18歳になる前に結婚している。少数民族の場合、その割合は、ほぼ5人に1人だ。

 6人きょうだいと共に伝統的な高床式住居で育ったニエさんは、少数民族の女性として生まれた自分に求められることを小さな頃から知っていた。しかし、同調圧力に屈することを断固拒否してきた。

 何が美しいかについてさえ、戦わねばならなかった。

 浅黒い肌に対する偏見「カラーリズム」はアジア全域に広がっているが、昨今は、人種間の平等を求める「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動の影響もあり、色白の肌が礼賛される古い考えへの反発が起きている。

 ニエさんは、少女のときからすでに時代を先取りしていた。母親に美白製品を使うように言われても、それを断って遊びに出掛けていたとニエさんは振り返る。「10代の子たちは強力な美白クリームをよく買っていた。でも、彼女たちのようにはなりたくなかった」

 ニエさんは、結婚を勧める母親に反抗する代わりに本を読み、ベトナム語を独学した。(公用語の)ベトナム語は、地元の方言しか話されていない故郷の村から抜け出すためのパスポートだった。

 ニエさんが南部ホーチミン(Ho Chi Minh)で過ごした最初の頃の生活は地味なものだった。企業財務を大学で学ぶ費用を稼ぐために家政婦として働いていると、家族も夢を認めてくれるようになった。

 ニエさんは言う。「母が、私の学費のためにお金をためてくれるようになった。しわ寄せはすごく大きかった。きょうだいは、食事の量も減らされたんじゃないかと思う。おやつなんて絶対にもらえなかったはず」