【10月10日 AFP】エジプトの豊かなナイル川デルタ(Nile Delta)の畑で、エマン・メハンナ(Eman Mehanna)さんは真夜中にヘッドランプのスイッチを入れ、その日のジャスミンの花摘みの仕事を始める。この時期、花の強い香りは遠方にまで漂う。

 エジプト・ガルビーヤ(Gharbiya)県は、ジャスミン栽培の中心地だ。世界貿易の統計によると、この地で香料用として抽出されるアロマオイルは、世界の供給の半分以上を占めている。

 首都カイロの北方約100キロにあるシュブラベロウラ(Shubra Beloula)村の畑でジャスミンの手摘みの花を集めながら、メハンナさんは「子どものころからジャスミン摘みをやっている」と語る。

 ジャスミンの収穫シーズンは毎年6月から11月。その間の花摘み作業は毎日、真夜中に始まり、夜明けの数時後に終わる。夜中に収穫する主な理由は花が完全に開く時間帯にあるのだが、日没後の方が涼しく、労働者にとっては条件がいい。

 ただ、収穫作業は楽ではない。1日に収穫できる花弁は、手だれの労働者で5キロほどだ。 

■花弁からペースト

 国際精油香料貿易協会(International Federation of Essential Oils and Aroma TradesIFEAT)によると、香料用ジャスミン抽出物の生産国は主にエジプトとインドで、両国で世界の供給の約95%を占めている。

 IFEATの推定によると、ジャスミン貿易はエジプトに年間約650万ドル(約6億9000万円)をもたらし、約5万人の収入源となっている。

 地域の精油工場によると、ガルビーヤ県には推定400ヘクタールジャスミン畑があり、国では現在、1日当たり20トンのジャスミンの花が日々収穫されているという。

 毎年、これらの収穫された花から約5トンの濃厚なジャスミンペーストがつくられる。

■「はした金」

 労働者らには長年抱いている不満がある。それは、最大の競合相手であるインドの低生産コストにより、自分たちの生産物の価格が押し下げられていることだ。

 労働者の一人であるワーファさん(60)は、できの良い年でも1日数時間の労働で2~3ドル(約210~320円)しか稼ぐことができない人もいると話し、「はした金」にしかならないと続けた。

 だがその一方で、ジャスミンの収穫期を待ち望む人もいる。

 メハンナさんは、花摘みで人々が集まると「いろいろな話ができる。それが楽しみなのです」と語った。(c)AFP/Bassem Aboualabass