【10月9日 AFP】米ニューヨーク市内で新型コロナウイルス感染者数が再び増加に転じる中、新規感染者が特に多く確認されている正統派ユダヤ教徒の多い地区では、攻撃対象とされ侮辱されているとの思いを住民たちが訴えている。信仰を理由に、市当局からレッテルを貼られていると非難する声もある。

 全米で最も人口密度の高いニューヨークは、数か月にわたり世界有数の新型コロナ感染拡大地となり、2万3800人の死者を出した後、感染の抑え込みに成功した模範都市とみられていた。だが、長く1%で横ばいだった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)検査の陽性率は、9月半ば頃から上昇を続け、9月29日に3%を超えた。

 関係当局によれば、陽性率の上昇が最も著しい地域には正統派ユダヤ教徒が多く住むブルックリン(Brooklyn)地区が含まれている。そして、ユダヤ教徒たちはちょうどこの時期、ユダヤ暦の新年祭「ロシュ・ハシャナ(Rosh Hashanah)」から贖罪(しょくざい)の日「ヨム・キプール(Yom Kippur)」まで続く祭日を祝い、人々が集まる催しが多く開かれていた。

 ニューヨーク州のアンドルー・クオモ(Andrew Cuomo)知事は、正統派ユダヤ教徒のコミュニティーがあるニューヨーク市郊外の一部で感染者が急増していると発言。感染拡大阻止に向け、宗教指導者らと面会する予定だと語った。

 ビル・デブラシオ(Bill de Blasio)市長は、感染が拡大している地区に警官と保健当局者を派遣し、ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)とマスク着用を奨励していると説明。指示に従わない住民には、必要に応じて召喚状を出すと述べた。

■「攻撃されている」

 ニューヨーク市内にはさまざまなユダヤ人コミュニティーがあり、市役所は特定のコミュニティーを名指ししないようにしているが、緊張の高まりは明白だ。ブルックリン地区の公園で9月25日に行われた啓発活動では、保健当局者らにやじが浴びせられた。

「ブルックリンはユダヤ人コミュニティーではない。私たちは、コミュニティーの一部だ」。陽性率が6%に迫っているブルックリン地区ミッドウッド(Midwood)のシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)前で、スティーブ・ズカー(Steve Zuker)さん(52)はこう訴えた。

「私たちは、攻撃されていると感じている。自分の信仰を理由に攻撃されたら、人々は反撃するものだ」

 ズカーさんのコミュニティーではユダヤ教指導者らがCOVID-19のリスクを注意喚起し、マスクを配布したり、約2000人いるユダヤ教徒たちが安全な距離を保てるよう集会でのスペースを確保したりしているという。

 一方で、リスクを軽視し、推奨される対策を取ろうとしない人々がいることもズカーさんは認めた。一部の住民は、自分には抗体があり感染の心配はないと信じており、それをソーシャル・ディスタンシングを行わない理由に挙げているという。

 取材中には、シナゴーグの中から少年たちがAFP取材班に「フェイクニュース」と叫ぶ一幕もあった。米大統領選が近づく中、全米各地と同様に、ニューヨークのユダヤ人コミュニティー内でも二極化が進んでいる。

 シナゴーグ前で取材に応じた別の男性(20)は、「リベラル系メディア」と「社会主義者たち」が分断の種をまいていると非難。「皆、僕らを滅ぼそうとしている」「僕らは気を付けようとしている。気を付けていないと言われるのは、侮辱だ」と語った。(c)AFP/Catherine TRIOMPHE