【10月1日 People’s Daily】「13トンのカニの養殖で、少なくとも50万元(約770万円)以上の収入が見込める。いま振り返ってみても、移転したことは本当に良かったよ」。中国天津市(Tianjin)寧河区(Ninghe)で大規模な稲作とカニの養殖を営む杜乃合(Du Naihe)さんは満足げに話す。養殖や民宿を長年営んでいた寧河区の七里海湿地を離れ、新しいビジネスに取り組んでいる真っ最中だ。

 天津市内の東北部に位置する七里海湿地は、約106平方キロメートル以上にわたり湿地や葦(アシ)原、池が広がる都会の大自然だ。周辺の人々は魚やエビ、カニの養殖で生計を立ててきた。2012年ごろ、湿地は観光名所として人気となり、ピーク時は1日に1万人以上の市民が訪れた。

「当時はこの湿地を利用して、地元の人々に富をもたらそうとしました」。天津市七里海湿地自然保護区管理委員会の陳力(Chen Li)主任は率直に話す。急激に観光業が発展した結果、無秩序な開発、農薬の過剰使用、生活排水の垂れ流し、ごみの不法投棄などが横行し、湿地の自然は汚された。

 天津市幹部は七里海湿地を何度も視察し、2017年から改善プロジェクトを開始した。天津市規則・自然資源局の陳勇(Chen Yong)局長は「土地を浄化して水を引き入れ、湿地や葦原の復元を図ると同時に、違法建築店舗の撤去、住民の移転措置も取った」と説明する。これまでに桟道や桟橋、民宿、レストランなど1086か所を撤去した。

 杜乃合さんも湿地で魚やカニの養殖、民宿を営んでいたが、2017年12月末に同じ寧河区内に移住。そして2019年、新たなビジネスとして、稲作とカニの養殖を同時に行う協同組合を設立した。約6ヘクタールの水田にカニを生息させる手法だ。「カニが水田の虫を食べるので農薬が不要になり、カニにやるエサも少なく済む。カニのフンは土壌の肥料にもなる」。この方式は周辺の農民もすぐ取り入れるようになり、行政が派遣する専門家が指導に奔走している。

 寧河区農業農村委員会の王進(Wang Jin)主任は「少なく見積もっても稲作とカニ養殖を同時に行うことで、1ムー(約667平方メートル)ごとに500元(約7500円)から1000元(約1万5000円)の増収が見込める」と話す。寧河区全体の農地16万ムー(約106平方キロメートル)で1億元(約15億円)規模の増収となる計算だ。

 七里海湿地は自然の姿を取り戻しつつあり、今年の春は多くのコウノトリが飛来し、水辺でたわむれた。10年以上も姿を見なかったカオジロダルマエナガ、ツリスガラ、ヒゲガラなどの絶滅危惧種の野鳥も湿地を訪れ、ゆったりエサを探すようになった。

「清浄に戻った七里海湿地は、マイナスイオンにあふれているね」と杜乃合さん。「目の前の利益に追われた日々から離れたことで、豊かな生活と美しい自然を子孫に託すことができるようになった」と感慨にふけっている。(c)People's Daily/AFPBB News