【10月1日 AFP】今や多くの科学者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する最も効果的な防護具だとみなしているマスクに、さらに別の利点があるかもしれない。マスク着用によって、害を及ぼさない程度の少量のウイルスにさらされ、免疫反応が誘発されると一部の研究者らは考えている。

 未証明のこの仮説は、マスク着用がワクチンを待つ人々に免疫を与える助けとなる可能性を示唆している。

 8月に米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル(NEJM)」に掲載された最新の研究論文によると、マスク着用によって新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への感染を完全に防げるわけではないが、吸入するウイルス量を減らせる可能性があるという。

 論文の著者の一人、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の感染症専門家モニカ・ガンジー(Monica Gandhi)氏は、「今回の研究では、体内に入るウイルス量(接種量)が多いほど症状が重くなるという仮説の上で、マスクを着用すると吸入するウイルス量が減り、不顕性(無症状)感染率が上昇すると考えている」とAFPの取材に語った。

 UCSFのグラッドストーン・エイズ研究センター(Gladstone Center for AIDS Research)の所長を務めるガンジー氏によると、不顕性感染は白血球の一種のTリンパ球による強力な免疫反応と関連しており、これがCOVID-19に対して有効な可能性があるという。

 ガンジー氏は「マスク着用はある程度の免疫を提供し、ワクチンまでの『つなぎ』のような役割を果たせる可能性があると考えられる」と述べた。

 同氏によるとこの仮説を検証するために複数の研究が着手されている。その中には、マスク着用を要請している都市で、症状の重篤度が低下するかどうかの検証も含まれているという。

■天然痘の教訓

 今回の仮説は天然痘に対する「人痘接種法」を思い起こさせる。人痘接種法は、天然痘ワクチンが登場するまで用いられていた初歩的な予防接種で、人工的に軽度の感染を起こさせ、より症状が重篤化しないよう免疫を与えようとしたものだ。

 米国立医学図書館(NLM)によると、アジアで行われた初期の人痘接種法は、天然痘患者に生じたかさぶたを乾燥させ、健康な人の鼻に吹き込んでいたという。

 今回の論文では人痘接種法と同じく、少量のウイルスにさらされることで免疫が高まると発想している。だが、これに疑念を抱く専門家もいる。

 米コロンビア大学(Columbia University)のウイルス学者、アンジェラ・ラスムセン(Angela Rasmussen)氏は「この考えの有効性は非常に疑わしい」という。新型ウイルスの場合、ウイルス量が少なければ症状が軽くなるかどうか、まだ分かっていないと同氏は指摘する。

 ラスムセン氏はツイッター(Twitter)上で、マスク着用によって新型コロナウイルスへの暴露量が減るかどうかは現時点では不明で、さらに免疫の持続期間やその程度についてもまだ不明な点が多いと述べた。

「これは興味深いアイデアだが、新型コロナウイルスに対する『予防接種』の一手段としてマスクを着用すべきだと主張するには、未知の要素が多すぎる」とラスムセン氏は述べている。(c)AFP/Paul RICARD