【9月29日 AFP】バルト海(Baltic Sea)で1994年に発生し、852人が死亡したフェリー「エストニア(Estonia)」の沈没事故をめぐり、このほど公開されたドキュメンタリー番組で事故の公式見解を覆す可能性がある新たな証拠が示された。これを受け、エストニア、スウェーデン、フィンランドの外相は28日、「新たな情報の調査をする」予定だとする共同声明を出した。

 ドキュメンタリー「Estonia: The Find That Changes Everything(エストニア:すべてを覆す発見)」の制作チームは、船体にこれまで記録されていなかった4メートルもの穴があるのを発見したとしている。ディスカバリー・ネットワークス(Discovery Networks)制作の同番組は5部構成で、28日に配信が開始された。

 1994年9月28日早朝、エストニアの首都タリンからスウェーデンの首都ストックホルムに向かっていた車載客船がフィンランドの領海で沈み、乗客乗員852人が死亡した事故は、平時の欧州における最悪の海難事故となった。船は1時間で沈没、生存者はわずか137人だった。

 調査当局は1997年、海が荒れ、バウバイザー(船首部分の扉)がねじ開けられ、車両甲板に水が一気に流れ込んだことが沈没の原因だと結論付けた。

 事故の生存者と被害者遺族は20年にわたり、より徹底した調査を行うよう訴えてきた。バウバイザーが開いたくらいではあれほど速く沈まなかったと主張する声も上がっていた。

 番組制作チームは、遠隔操作の潜水艇を使い沈没船を調査し、問題の穴を見つけた。

 専門家らは制作チームの取材に対し、外側から非常に強い力が加わらなければこうした損傷はできないと話しており、事故の当日に実際は何が起こったのかという数々の謎が浮上している。

 エストニア、スウェーデン、フィンランドなど関係国はこれまで、沈没原因の再調査に極めて消極的だった。

 フィンランドのウト(Uto)島の周辺海域は墓所に指定されており、沈没船の残骸を探索することは禁じられている。

 このため、ドキュメンタリーを制作したヘンリク・エバートソン(Henrik Evertsson)監督と撮影スタッフ1人は、昨年9月にこの場所を調査した後、逮捕された。スウェーデンで墓地の尊厳を侵害した罪で有罪になれば、最高で禁錮2年が科せられる可能性がある。(c)AFP/Sam KINGSLEY