【10月4日 AFP】能楽師の中森健之介(Kennosuke Nakamori)さん(33)の声が、能舞台に響き渡る。だがこれは稽古の様子で、中森さんは数か月にわたり観客を前に公演を行っていない。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)で、日本各地の舞台は閉鎖された。他の伝統芸能が民間スポンサーの支援や国の助成金を潤沢に受けられる一方、能は助成が十分ではないため、収入を公演そのものに大きく依存している。

 能は、世界最古の舞台芸術の一つと見なされているが、パンデミック以前から観客と演者の数が減っている。そのため、業界の中には能の存続を危惧する声もある。

 中森さんは7月下旬、神奈川県鎌倉市にある鎌倉能舞台(Kamakura Noh Theatre)で、AFPの取材に応じた。新型ウイルスの影響で「能楽の公演自体をもう今年はやらないと決めている方が、非常に多い」という。

 演者の中には、オンラインで公演を配信することでコロナ禍に対応しようと試みる人もいる。中森さんは、動きが少ないという能の性質上、動画との相性がよくないと不安視している。

 中森さんは、公演で実際にはやし方の気合や地謡の力のこもった謡を聴けば、観客も飽きずに見ることができるだろうと話した。

「動画としては、どうしてもそこがうまく伝わらないところがある」

 能の今後を危惧する中森さんと、同じく能楽師の父親、中森貫太(Kanta Nakamori)さんは、秋の公演の損失見込み額を補うため、クラウドファンディングを開始した。

 懸念はあるものの、公演の一部を有料配信する計画もあるという。

 貫太さんは「新しいものと融合させることで、新しい観客層を引き入れる」努力が必要となってくると語った。

 何世紀にもわたる能の歴史を考えると、「魅力はそれほど簡単には衰えない」と貫太さんは望みをかけている。(c)AFP