■政治利用も

 今回もまた、このような報道が行われている。

 恵まれない境遇からはいあがり、多くのヒット映画に出演し、評論家から高く評価された若手スターの死は、うつ病は成功できなかった人たちの病気だと長く偏見の目を向けてきたインドの人々に衝撃を与えたのだった。

 インドでは9月上旬、新型コロナウイルスの感染者数が世界で2番目となり、厳格なロックダウン(都市封鎖)の影響で今年4~6月期の国内総生産(GDP)が前年同期比25%近く落ち込んだが、テレビが大々的に取り上げたのはチャクラボルティーさん逮捕のニュースだった。

 特定政党への支持を公にしている主要テレビ番組「リパブリック(Republic)」や「タイムズ・ナウ(Times Now)」も、ラージプートさんの自殺を取り上げ、厳しい状況となっているナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相政権に一時的な救済を提供した。

 政治家もこの流れに乗っている。与党・インド人民党(BJP)は、ラージプートさんの出身州であり、来月に州議会選挙を控える東部ビハール(Bihar)州で「#JusticeForSushant(スシャントに正義を)」キャンペーンを展開している。

 だが、必ずしも全員がこうした報道を歓迎しているわけではない。

 フェミニスト活動家のバンディタ・モラルカ(Vandita Morarka)氏は、「私たちが目にしているものは、若い女性に対する単なる悪口だ」「全くもって不公平で、非常に女性差別的だ」と批判した。

 多くのボリウッドスターもまた、チャクラボルティーさんへの支持を表明している。

 だが、過熱気味な報道が収まることはなさそうだ。インドのテレビ局はニュース放送規制局(NBSA)が名目上監督しているが、ほぼ権限がなく、実際は自主規制の原則によって運営されている。

 セシュ氏によると、NBSAはその名に値するような規制はほぼ行っていないという。「テレビ番組は、かなりの部分を自分たちのやりたいようにやっている」と指摘した。(c)AFP/Ammu KANNAMPILLY